旅の途中、マレンは人生を大きく左右する2人の男性と出逢う。最初に出逢った年配の男性・サリー(マーク・ライランス)は、匂いでマレンの秘密に気づいた。サリーもまた人喰いだった。サリーは人喰いとしての処世術や人喰い同士は食べてはいけないというルールをマレンに教える。

 サリーと別れた後、マレンの嗅覚に強く訴えかける若者・リー(ティモシー・シャラメ)が現れる。リーもやはり同属だった。年齢の近いリーとマレンは、人喰いとしての悩みを共有する。ずっと孤独だったマレンにとって、リーは初めての仲間と呼べる存在だった。重い運命に翻弄されながらも、マレンとリーは旅を続けることになる。

 凄惨なカニバリズムシーンとは対照的に、マレンとリーとの旅する姿は青春ロードムービーとしての輝きがある。社会のどこにも居場所のない主人公たちが、安住の地を求めてさまよい続ける。

 罪を犯した恋人たちが米国の荒野を旅する様子は、テレンス・マリック監督が実在の殺人事件を題材にして撮り上げた伝説のデビュー作『地獄の逃避行』(73)を思わせるものがある。アメリカンニューシネマの世界を、ホラー要素を交えてリブートした作品だと言えるかもしれない。イタリア出身のルカ監督の、アメリカンニューシネマへのリスペクトを感じさせる。