◆日本のゲイ映画としてひとつの到達点、あるいはスタート地点
そしてこの作品のひとつの肝だが、セックスシーンがこれまたリアルだ。
聞けばこの作品は、インティマシー・コレオグラファーが採用されているという。濡れ場を演じる際に俳優を尊重する立場から撮影陣と橋渡し役をするインティマシー・コーディネイターは聞いたことがあるが、コレオグラファー(編集部注:振付家)というからにはゲイセックスをリアルに再現するアドバイスをする役割なのだろう。
お互いの確認が取れたらすぐ、性行為へとなだれ込む性急さ。「タチ」「ウケ」をちゃんと表現した動き。龍太の妙に手練れた細やかな動き。
果たして、ちょっと忠実すぎるくらいの再現度に自分のように居心地悪く思ってしまったのは、先ほどの恋愛と同じくこれまでの自分の様々なセックスを思わず振り返ってしまったからだ。これも誰も必要としない情報で本当に申し訳ない。
見ているうちに、ポルノグラフィでもないのに、ゲイセックスをこんなにちゃんと世の中に提示しても大丈夫なのか? とゲイとして不安に思うくらいである。元秘書官の荒井ちゃんにはちょっと見せられないな、もっと嫌がられちゃうな、なんて。
しかしすぐに、これはおかしな話だと気付いた。ゲイの自分が、他の映画やドラマで男女が普通にベッドシーンを演じているのは、いつも当たり前のものとして何の疑問もなく受け入れているではないか。ゲイ歴55年のクソベテランの私ですらゲイという事実に後ろめたさと恥ずかしさを刷り込まれていることに改めて戦慄するのであった。
今作は、日本のゲイ映画としてはひとつの到達点、あるいはスタート地点になるのは間違いないだろう。