◆毎朝見る俳優として

 漁港、牧場、みかん収穫、遺跡発掘バイト。「自分の言葉」を探す貴司の言葉選びの修業時代は続く。旅をしながら歌人の道を歩むスタイルはまるで“放浪の歌人”若山牧水のようでもある。第16週には新鋭歌人として新聞に掲載されるまでに。暑い夏も黙々と創作を続け、ついに権威ある短歌賞を受賞する。

 巌が「心にすっと溶け込む歌」と評するように貴司の言葉や彼が発見する世界の見え方は、視聴者の日常にそっと溶け込んでくる。それを媒介する赤楚衛二のすごさは言うまでもないこと。赤楚君は、人の心にポコッと湧き上がるけれど言葉にはできない曖昧な感情を表現するのがほんとうに上手い。貴司役を通して彼は単なる演技を超えた特別な語り方を得ている。

 貴司は饒舌なわけではないけれど、でもだからこそ彼が文学的な言葉を発する瞬間に、赤楚君が一言一言を噛みしめるように丁寧にアウトプットする。それを視聴者は、貴司&衛二の滋味深いコールアンドレスポンスの延長でさっとキャッチするだけ。毎朝見る朝ドラの俳優としてこの上ない赤楚衛二が演じる梅津貴司の言葉(台詞)がたびたびネット上で話題になったりするのも当然のことだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu