◆最後にもう一度、自分のために「千恵様」と呼んだ有功

最後にもう一度、自分のために「千恵様」と呼んだ有功
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 有功は、大奥の男たちそれぞれに役目を与えていった。大奥総取締という役を得たことで、自らが生きる力を得たように、役目が人を生かすことを、悟りを開いた僧ではなく、ひとりの男として「嫉妬、羨望、孤独」の中で生きた時間が導き出した道だった。

 さて、運命に翻弄されながらも、自分の足で踏ん張り舵を取り続けた強き女性・家光は27歳の短い生涯を終えた。以前、有功が「この業から解き放ってください」と願った際に、「“心だけ”では足らぬか」と問うた家光だったが、死を前にして「わしたちは“心しか”なかったから。唯一のかけがえのない者となれた」と自らに答えを出した。そして、有功からの「千恵様」の呼びかけに「うん」と笑顔を見せ、千恵として、もっとも愛する者の手のなかで息を引き取った。

 本ドラマは森下佳子の脚色が真に素晴らしく、この家光最期の「千恵様」のくだりもオリジナルである。それも、森下が原作へ最大のリスペクトを持っているからこそ生み出されたことが強く伝わってくる流れであり、原作ファンにもドラマファンにも、家光にも温かなギフトのようなラストとなった。そして家光の死を見届けた有功は、もう一度、「千恵様」と声に出した。かみしめるように。自分のために。