会社が経営再建や事業の再構築のために期間を限定して退職者を募集する「早期希望退職制度」では、一般的に退職金が上乗せされます。しかし、退職金が多くなるからという理由だけで早期退職を決めてしまうと、後悔するかもしれません。
早期退職で上乗せされる退職金の目安は?
まず、実際に早期退職することで上乗せされる退職金の額はいったいいくらぐらいになるのでしょうか。厚生労働省が2018年に発表した「就労条件総合調査」では、定年退職した場合と早期優遇退職時の勤続年数ごとの退職金の額は大学・大学院卒の場合で以下の結果となっています。
表.定年退職と早期優遇退職の退職金額の比較
勤続年数 | 定年退職 | 早期優遇退職 | ||||
退職時の月収 | 退職金 | 月収換算 | 退職時の月収 | 退職金 | 月収換算 | |
20~24年 | 48万8,000円 | 1,267万円 | 26ヵ月分 | 47万4,000円 | 1,402万円 | 29.6ヵ月分 |
25~29年 | 53万円 | 1,395万円 | 26.3ヵ月分 | 53万円 | 1,995万円 | 37.6ヵ月分 |
30~34年 | 50万7,000円 | 1,794万円 | 35.4ヵ月分 | 54万8,000円 | 2,522万円 | 46ヵ月分 |
35年以上 | 51万4,000円 | 2,173万円 | 42.2ヵ月分 | 53万9,000円 | 2,530万円 | 46.9ヵ月分 |
大きく差がつくのは勤続年数が25年から29年までの人で、早期優遇退職者の方が月収換算で11.3ヵ月分、つまり約1年分退職金が多くなっています。
ただし、上記の金額はあくまで全企業・職種の平均です。退職金の額も会社の規模や仕事内容によって変わるので、早期退職を検討される方はどのぐらい退職金が増えるのか、よく確認しておきましょう。
早期退職のメリット、デメリット
早期優遇退職を利用すると退職金の額は増えますが、退職は人生の大きな決断ですので、そのメリットとデメリットを理解した上できちんと比較検討しましょう。早期退職による主なメリットとデメリットをまとめたものが以下の表になります。
表.早期退職によるメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・退職金の額が増える ・若く健康なときに自由な時間が持てる ・新しいキャリアを始められる |
・もらえるはずだった給料が受け取れなくなる ・再就職しても年収が維持できるとは限らない ・年金が減る可能性がある |
メリットを見てみると、自分で何か新しいことを始めたい人や、次の会社でステップアップしたい人にとって、まとまったお金と時間が手に入る早期退職は検討する価値がありそうです。
逆に、ただ単に早くリタイアしたい人や、少しゆっくりしてから再就職を考える人にとっては金銭面のデメリットは大きくなりそうです。というのも、早期退職したのち収入が維持できるかという問題もありますが、こうした目先の収入の他にも年金が減額になる可能性があるからです。会社員の方が加入している厚生年金は、個人事業主になると加入できませんし、再就職で会社員になっても収入が減れば将来の年金額に影響してきます。
再就職が前提でも損になることも
早期優遇退職制度で上乗せされる退職金の額は会社によって異なりますが、たとえ1,000万円プラスになっても年間500万円で暮らしている人であれば2年でなくなってしまいます。
退職した人の中には、今まで長い間働いてきたから少しゆっくりしてから転職を考えたい人や、失業給付を受け取ってからと考える人もいますが、間が空けばそれだけ再就職の条件は厳しくなるので、よほど資産に余裕がある人でなければ、早期退職の後すぐの再就職を前提にする方がいいでしょう。
ただし、再就職しても今と同じ収入を維持できる保証はありません。年収が200万円下がれば、早期退職で退職金が1,000万円増えても5年を過ぎると結局損になってしまいます。
目先の現金より将来計画を
早期退職は、何か新しいことを始めたい人や違う職場でステップアップをはかりたい人にとってはメリットが多いものの、お金の面で考えると将来的に損になることの方が多いかもしれません。増額される退職金の額だけでなく、自分がこれから得るであろう収入や転職後の市場価値など、将来計画を考えた上で損か得かを判断しましょう。
文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
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