2019年に中国で公開された『シャドウプレイ』は、製作費12億円を投じたロウ・イエ監督史上最大となる大作映画だ。中国で人気の若手俳優ジン・ボーラン、台湾で大ヒットした青春映画『あの頃、君を追いかけた』(11)のヒロインだったミシェル・チェンらを配役。派手なカーアクションもあるエンタメ作品に仕上げている。

 本作で刮目すべきは、広州で2010年に実際に起きた暴動事件が物語のモチーフとなっている点だろう。中国バブルに浮かれる人たちがいる一方、激変する社会に取り残されてしまった人たちも少なくない。すべてがお金に換算される世の中になり、街も人心もすっかり荒廃してしまった様子を、ロウ・イエ監督は映画化している。

 当然ながら当局から厳しい検閲に遭い、リアルに再現した暴動シーンは大幅なカットを命じられ、ロウ・イエ監督は公開1週間前まで検閲との対応に追われることになった。今回、日本で初公開される『シャドウプレイ 【完全版】』は、余儀なくカットされたシーンなどを復活させたディレクターズカット版となっている。

 物語の序盤で描かれるのが、広州で起きた暴動事件だ。新しい高層ビルが立ち並ぶオフィス街の中に、ぽつんと窪地のように低層の古い建物たちが残されている。バブル景気とは無縁のこの一角は「都会の村」状態となり、古くから住む住民たちが居残っていた。