むしろ男女二元論で捉えきれない地点から多彩な音楽が生まれている昨今、相変わらず乱暴に女性という括りでまとめてしまうことへのナンセンスさは認識しつつも、とあるアーティストが語ってくれた「(これまで)スポットライトが当たっていなかった分、注目が集まる意味では良い」「まだその(=男女二元論にとらわれない紹介をする)段階ではない、理想には程遠い」という発言にインスパイアされる形で発信を続けている。
本書において私は、現状のシーンの活況に繋がるメルクマールを2017-2018年と置いたうえで、女性の表現者による試みが現在のポップミュージック/ラップミュージックのリズム面における革新的な動きを先導している旨を論じた。
MCバトルの人気を背景にラップが市民権を獲得しトラップビートの民主化が加速した2010年代後半、2017年にAwichがアルバム『8』を、ちゃんみながアルバム『未成年』をリリースする。翌2018年には宇多田ヒカルが『初恋』を、中村佳穂が『AINOU』をリリース。
2017年の前者はラップコミュニティを起点とし、2018年の後者はポップミュージックのフィールドから広範囲に影響を与える形で、ラップにインスピレーションを得た新たな言語感覚を司る潮流が興った。