1,100万人いると概算されていたユダヤ人をすべて排除するには、どんな手段が有効なのか。銃殺刑では到底追いつけない数字だ。女性や子どもたちにまで銃を向けることを嫌がるドイツ兵は多かった。PTSD状態に陥り、ドイツ軍全体の士気にも悪影響を与えてしまう。
そこで考案されたのが「ガストラック」だった。トラックのコンテナにユダヤ人を押し込み、排気ガスを充満させるという処刑方法である。トラックをどこにでも運べるという利点はあるが、排気ガス死させるのに時間が掛かるのが難点だった。
会議中、何度か「人道的配慮」という言葉が使われる。これはユダヤ人に対してのものではなく、処刑に関わるドイツ兵の精神面を気遣ったものだった。心優しいドイツ兵たちがユダヤ人を大量虐殺しても罪悪感を感じずに済む方法が、会議後半で提案されることになる。
この画期的なアイデアの考案者こそが、アドルフ・アイヒマンだ。アイヒマンは机上でシミュレートした計画を朗々と説明する。ポーランドにあるアウシュビッツ収容所に、新しい棟を建設する。建設には、収容所で暮らしているユダヤ人たちを使う。新しい密室性の棟で毒ガスを使って大量処理すれば、ハイドリヒが目標に掲げる1,100万人という数字は不可能ではない。また、ユダヤ人たちが処理される様子をドイツ兵は直接見ることはないので、罪の意識を感じずに済む。