普段は地味で目立たないアイヒマンだが、このときの彼は自分が持てる才能をいかんなく発揮してみせる。会議に参加していた他の高官たちも、アイヒマンの有能ぶりに感心するばかりだった。
ヒトラー不在の会議で、15人の高官たちはヒトラーが求めていた答えを導き出すことになる。会議に要した時間は、わずか90分だった。「ヒトラー総統なら、どう考えるだろうか?」という権力者への忖度が、この会議を動かしていた。人間が持つ想像力が、とてつもなく邪悪な事態を招くことになる。会議の参加者たちは、ヒトラーの代用品と化してしまっていた。人間としての感情を持たない人工知能と同じだった。
テレビ映画『謀議』と同様に、内務省次官のヴィルヘルム・シュトゥッカート(ゴーデハート・ギーズ)が官僚サイドとして最後まで抵抗を試みるが、それはユダヤ人の命を守るためではなかった。ドイツ人とユダヤ人とを区別する「ニュルンベルク法」の起草者として、シュトゥッカート自身のプライドを守るために過ぎなかった。反論はした、というポーズにしか映らない。
他の高官たちも同じだ。今ある自分の立場を守ることができればよかった。自分と家族に与えられた権利を享受できれば問題はなかった。かくしてアイヒマンが提案した「ユダヤ人問題の最終的解決」案に、会議出席者全員が賛同することになる。