苦しい日常の中で、尊い関係が築かれていく物語

 あらすじはこうだ。早くに妻を亡くし山里にひとりで暮らしていた陶器職人の誠治(役所広司)の元に、アルジェリアに赴任中のはずの一人息子の学(吉沢亮)が帰ってくる。彼は難民出身のナディアと結婚したことを機に会社を辞め、焼き物の仕事を継ぎたいと言うのだ。同じ頃、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年・マルコスは半グレたちに追われ、たまたま誠治の住まいに転がり込むのだが……。

 本作の何よりの特徴は、日本人の親子の物語と、在日ブラジル人の青年を中心にした若者たちの日常を並行して描いていることだろう。経済的な困難を抱えていることは共通していて、後者はさらに過去と現在進行形の重苦しい事情ものしかかる。難民や差別だけでなく、ヘイトクライム、さらにはテロリズムも描かれており、現実の今にコロナ禍やロシアによるウクライナ侵略があるからこそ、それらがより切実に感じられる。

 それでも、在日ブラジル人たちは楽しく過ごしていることもあるし、彼ら彼女は昔は荒くれ者だった役所広司演じる誠治に親近感を抱く場面もある。困難な問題が積み重なる世界で、単純な利害の一致ではない、国籍や育った環境を超えた無償の愛情や尊い関係、いや「家族」が築かれていく。それでもなお、知るよしもなかった悲劇が起こることが苦しく辛く思えるが、だからこその希望も得られる物語にもなっていた。