◆みんなが知っている曲の数が圧倒的に足りない
そういうわけで、今後の紅白で“新しい”ことを軸にすることはできないのです。
こうした状況だからこそ、篠原涼子やTHE LAST ROCKSTARSなどが注目を集めざるを得なくなってしまったのだと思いますが、彼らだって今年以降も目玉になれるわけではありません。そもそもみんなが知っている曲の数が圧倒的に足りない。アラフォー、アラフィフの青春ソングで構成したくても、尺が埋まらなくなってしまう。
今回もっとも放送時間が長かったのが、桑田佳祐、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎らの「時代遅れのRock’n’Roll Band」だったそう。(10分。ヤフー個人掲載『紅白歌合戦 誰がパフォーマンス時間を長く与えられたのか 4分越えていたNHK推し10組』堀井憲一郎氏調べ)
これも桑田佳祐に忖度(そんたく)したというよりも、とりあえず楽器を演奏できて、くだらない話でもして、間をもたせられる存在が彼らぐらいだったということだったのではないか。
なんだか昭和を延命させて令和まできてしまったという構図まで浮かんできますね。恐ろしい。
◆紅白は社会的インフラとしての使命を終えた
こうして音楽業界を取り巻く環境を振り返ってみると、問題はNHKがいいとか悪いとかではなく、むしろ紅白を成立させるための条件が崩壊しているのだと気づくのではないでしょうか。
正直言って、もう上がり目はありません。平成最後のときのような爆発を期待したところで、弾がないのですから。
だとすれば、まだ30%の視聴率をキープしているうちに、一応惜しまれつつ有終の美を飾るのがいいのではないか。
『第73回NHK紅白歌合戦』は、社会的インフラとしての使命を終えたことを印象付けたように思います。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4