今年、鶴太郎はお父さんを亡くしたそうだ。享年95歳。この歳まで生きたのだから、大往生だと思う。亡くなる間際、お父さんは「あんたのごはんが一番おいしかったよ。いつも、ごはん作ってくれてありがとう」と妻……つまり、鶴太郎のお母さんに告げ、息を引き取ったらしい。
鶴太郎のお母さんは、現在91歳。今も毎日を元気に生きている。徹子は鶴太郎に言葉をかけた。
徹子 「お母様のものまねってできる?」
鶴太郎 「はい? いや、母親のものまねやっても一銭にもなりませんのでねえ(笑)。あんまり、やろうとは思わないんですけど」
徹子 「でも、お願いしたいわ」
鶴太郎の母親のものまねを聞き、一体どうするつもりなのだろう? 渋る鶴太郎であったが、笑いをまったく理解しようとしない徹子には無駄な抵抗だった。無茶振りに屈し、鶴太郎は母のものまねをし始めた。
「おまえ、最近、ひげ生やかしているけど、あれねえ、汚いんだよ、おまえ。ひげ、剃んなさい、おまえ。早く剃んなさい」
似ているかどうか、誰もわからないのだ。しかも、お母さんのものまねを振った徹子本人が一切笑っていない。
鶴太郎 「母親のものまねは、初めてでしたねえ(苦笑)」
徹子 「そうですかね」
ちなみに、鶴太郎には3人の息子さんがいる。三男・聡士さんは料理の道に進み、今や日本料理のシェフとして『あさイチ』(NHK)に出演することもある新星だ。
「高校の卒業式の日、帰ってきてから『料理、やりたい』って言うもんで、『じゃあ、一番厳しいところに行ってこい』と言って、京都の日本料理屋・吉兆に行かせたんです」(鶴太郎)
吉兆で修行していたなんて、すごい! 現在、聡士さんは独立し、自らのお店「赤坂おぎ乃」を営んでいる。ミシュランガイドの日本料理部門で、一つ星を獲得した名店だ。子どもが真っ当な芸能人は信用できるものである。
徹子 「(お店は)なんていう名前?」
鶴太郎 「『おぎ乃』です、『赤坂おぎ乃』」
徹子 「『おぎ乃』、本当に? フッフッフ。あなたが言うと、いちいち……(笑)」
鶴太郎 「嘘だと思うんでしょう(笑)」
徹子 「うん、嘘だと思って(笑)」
鶴太郎 「私、本名はオギノシゲオって言いますから」
徹子 「あ、本当に? あなた(笑)?」
無茶振りした上に、店名を嘘だと思っていた徹子。嘘ではない。鶴太郎の本名は、「荻野繁雄」である。
冒頭にも書いたが、今回の鶴太郎の出演は、『森村誠一ミステリースペシャル 終着駅シリーズ』の告知が目的だ。鶴太郎が演じるのは、執念の捜査で事件の奥に潜む真相へ迫るベテラン刑事・牛尾正直である。
近頃、ドラマを見ながら鶴太郎のヨガ姿がチラつくようになったため、「こんな仙人みたいな刑事はいないだろう」と筆者は思うようになっていた。そのシリーズが、ついに22日にファイナルを迎えたのだ。牛尾刑事を演じる鶴太郎の映像を見て、徹子が感想を述べた。
徹子 「でもあなた、随分顔が俳優の顔に向いていらっしゃいますね、この頃ね」
鶴太郎 「本当ですか!?」
徹子 「うん。今見てたら、誰だかわからなかった」
鶴太郎 「(笑)」
徹子 「いいと思いますよ、俳優さんみたいで」
鶴太郎 「俳優さんみたいになりましたかねえ?」
徹子 「なったんじゃないですか」
褒め言葉にもナイフを仕込んでいるのが、徹子だ。
さて、ここからがクライマックス。鶴太郎の「絵」と「書」について、徹子は質問した。
徹子 「今も書いてないの、中国字?」
鶴太郎 「書いてますよ、ちゃんと!」
徹子 「あの中国字のものを、今度1枚ぐらいいただけないかしら? なんでもいいですから、中国字書いて」
鶴太郎 「中国字(苦笑)。漢字ですよね」
鶴太郎の書で思い出す話がある。かつて、ナンシー関はクイズ番組に出る鶴太郎を見て、コラムで看破した。
「絵を描くようになってからのクイズ解答のフリップの字がすごいのである。芸術てな感じの字になっている」
つまり、“転向”した鶴太郎の生き方を批判していたのだ。あの頃の鶴太郎は、世間のほとんどに「今後、この人はいけ好かない方向へ進むのだ」と思わせていた。以下は、ナンシーのコラムからの抜粋である。
「鶴太郎司会のバラエティー番組『鶴ちゃんのプッツン5』の最終回で、エンディングのどさくさのなか、鶴太郎は『もう二度とこんなバラエティー番組をやることはないと思いますが』と言った。でも、私は聞き間違いだと思ったのである。それ以上に『もう二度と』などという言葉を使ってまでこんな宣言をするはずがない、と思っていたからだ。しかし、やっぱりあのとき、鶴太郎はそう言っていたのだ」(「週刊朝日」1994年4月8日号より)
宣言通り、鶴太郎は「こんなバラエティー番組」の司会をする芸人ではなくなった。でも、1周回ってヨガで笑いを取るタレントにはなった。誰も、この未来予想図は描けなかったはずだ。当然である。鶴太郎は、異常なペースで属性を増やしまくったから。彼のミーハー心と行動力は、常人のそれではない。
あと、筆者には「20年後の南原清隆が今の鶴太郎に少し近くなっているかも?」という予感がある。