◆「みんな等しく、作品の奴隷なんだ」

佐野:私は自分のためには戦えないんですよ。作品のためには戦えるんですけど。だからマンスプレイニングのおっさんが私に近づいてきたとしても、それが仮にドラマを守ることになるならいくらでもホステス的な振る舞いをするし、ドラマを守るためなら、本当は悪いと思ってなくても謝ることもできるし。

周りから見たら矛盾した行動を取っていることもあると思うけど、私にとって大事なのはドラマを一番良い形で出すことなので、自分個人の尊厳はどうでもいいと思ってしまうときもあるんです。

――そう思えるようになったのは、いつからですか。

佐野:やっぱり坂元裕二さん・渡辺あやさんと会ったことと、休みを取ったことが重なる2016~19年の3年間くらいがきっかけですね。

あやさんに、「佐野さんは、作家や監督のずっと下にプロデューサーがいると思っているようだけど、そうではない。どのポジションも、みんな等しく作品の奴隷なんだ」と言われたんですね。それを肝に銘じて、迷ったらこの言葉を思い出すようにしています。

◆自分のことを隠さず開示する

――佐野さんにとっての坂元裕二さん、渡辺あやさんのような存在を、私たちも人生の中で見つけることはできるでしょうか。なぜ佐野さんは、2人の懐(ふところ)に入っていけたのでしょう?

エルピス 恵那と岸本
恵那は、岸本の前では自分をさらけ出せる(C)カンテレ
佐野:私は常々、日本に足りないのはセラピーだと思っているんです。欧米だと、うまくいかないときに、セラピーを受けて精神科医に何でも話すじゃないですか。そういうことが必要だと思います。日本にはなかなかないんですが…。

たぶん私は、人に自分を開示するのが得意で、それは自分に対する評価が低いからでもあるんですけど、私の話で面白がってくれたらそれでいいと思っていて、自分の人生の物語を初対面の人にでも話せるんです。それが、懐に入っていけた理由の一つかもしれません。

実際、自分の幸福がどこにあるのかは人に問われないとわからないこともあるし、問われて初めてハッとすることもありますよね。

私の場合、渡辺あやさんの問う力の凄さによって、いつもより喋っちゃったこともありますが、自分を開示する、自分の手の内を信頼する人に見せてみることが大事だなと。