◆レールを降りて休んだことで、自分と向き合えた

佐野:それと、私はあやさんのアドバイスもあって、持っているものも、人間関係も含めて、いろいろ捨てたんですよ。そしたら、自分が欲しいものが実はわずかだったとわかりました。

若い頃は、周りの男性陣がみんな不動産とか車の話、誰々の妻が美人だとかいった話を日常的にしている中にいたこともあって、自分ももっとお金を稼ぐことや、漠然と良い暮らしをすることを考えなきゃと思わされていたんですよね。それに、「お前はエースにならなきゃ」と言われていたので、そのレールに乗ることに一生懸命でした。でも、そこから外れたことですごく楽になった。

TBSからカンテレに移ることも、当時は「キー局から準キー局に?」とか言われましたが、本当にそんなにお金が欲しいのか、良い暮らしをしたいのかというと、そんなことはなくて。私は、買いたい本が買えて、好きな映画が映画館で観られて、居酒屋で気にせずお酒を頼めるくらい稼げたら十分すぎるぐらいです。自分の願いはそれくらいのものだとわかったら、すごくクリアになりました。

◆テレビ局の恥部を描く『エルピス』は、なぜ通ったのか

――その一方で、この作品を観ていると、怒りや違和感を言葉にすること、すぐに諦めない、忘れないことも大事だなと感じます。

佐野:私は怒りが原動力になっている部分があって。ただ、過去はともかく、今は特定の個人に対しての怒りより、社会の不平等や無能な政治家とかに対する怒りのほうが大きいですね。毎日ニュースを見て「本当にこの法案このまま通っちゃうの!?」と思ったり。

今は個人に対してではなく、社会に気持ちを向けていられることが、ありがたい状態だと思うんですよ。だからこそ、そうした社会を少しでも改善できるようなドラマを作りたいと思います。

エルピス 恵那 岸本
序盤の恵那と岸本(C)カンテレ
――それにしても、この企画、よく通りましたね。例えば、報道番組が「スクープはリスキーだからやれない。後追いならやる」とか言って、週刊誌にネタをあげちゃうとか、テレビ局の裏側を明かしまくりで。

佐野:脚本を先に作っていたことが大きかったと思うんですよね。なんでこの企画が通ったのか、実は私もよくわかってないです(笑)。会社も、あまり深く考えずにうっかり通しちゃってから「こんな話だったのか」と思っている人もいるかもしれない(笑)。

――「長澤まさみOKしてるの? いいじゃん! やろうよ!」みたいな?(笑)。