◆「毒舌」「風刺」のポイント3つ

ウエストランド_優勝決定写真3  ©M-1グランプリ事務局
©M-1グランプリ事務局
――ウエストランドの優勝でSNSでは対立が起きており、ものすごくザックリとまとめますと、「コンプラで窮屈な時代に、人を傷つける笑いの復活だ」派と、一方「毒舌漫才はテクニックの必要な風刺で、弱い立場から強い立場の人をこきおろすから面白いので、傷つける笑いとは違う」派に二分されるようです。

<まず、お笑いのことに限らずSNSで対立するのはやめて欲しい(笑)!

「テクニックのある風刺」という言葉を考えたとき、個人的に「毒舌」「風刺」が最も美しく描かれているのが童話の「裸の王様」と思っています。

「王様は裸じゃないか!」と子どもが叫び、群衆が笑います。

 ・強い立場の者は愚かなことをしている。

 ・弱い立場から強い立場をこきおろす。

 ・誰もが感じているけど言葉にできなかったことを言葉にする。

この3点が大切だと思っています。

私は毒舌や悪口の判断に迷ったとき、ここに近付けているかどうかを考えます。ここからあまりに外れていた場合、瞬間的にウケたとしても、それは長続きしなかったり、多くの人の支持を受けたりすることはないだろうと思います>

――なるほど、ダメな毒舌として、政治家がよくやる失言が浮かびました。強い立場から弱い立場を悪く言ったり、支持者とのパーティーで内輪ウケはするけど他の人はドン引きするものが多い印象ですし。

<ただ、本当に対立しないで欲しい!芸能界は“淘汰(とうた)”という対立より残酷なものがあります。

ウエストランドをはじめとする毒舌の漫才師がこれから台頭していくのか、一過性のものなのか、みなさんが議論してもしなくても時間が経てば結果は出ちゃうんです。平たく言うと「ほっとけ!」です。

もちろん、SNSで漫才に限らず何かに対して「好き」「面白い」「支持する」といったポジティブな発信していただくのは大賛成です!>

◆ウエストランド 実はボケ/ツッコミが以前と入れ替わっている

M-1_2022_10番手_ウエストランド ©M-1グランプリ事務局
ウエストランド ©M-1グランプリ事務局
――では、気を取り直して優勝ネタの解説をお願いします。

<ウエストランドのネタの分析ですね。井口さんに「皆目(かいもく)見当違い!」と言われる覚悟で語ります(笑)。

今回のM-1グランプリでは、過去の決勝進出者がことごとく準々決勝あたりで敗退しました。

あえて名前は出しませんが、本当に“ことごとく”だったので、お笑いファンの方には簡単に何組か思い浮かぶと思います。彼らは準決勝に駒を進めた無名の芸人より、ネタ単体で見たら面白かったのかもしれません。何も知らない宇宙人が見たら、結果は変わったかもしれません。

しかし、去年や一昨年と同じ印象の漫才だった場合、それは同じ評価にならず、少し見劣りしてしまう可能性があります。芸人は、特に賞レースにおいては、進化を求められてしまうのです。

そんななか、2020年に1度進出しているウエストランドがなぜ決勝に進出できたのか?ウエストランドも、「井口さんが悪口を言いまくる」点では、過去と変わった印象はありません。

しかし、今年はそれ以外が進化していました。悪口の印象に埋もれて気付きにくいですが、「ボケ」「ツッコミ」が以前と入れ替わっているのです>

――意外です!早口でまくしたてる井口さんがツッコミだと思いこんでいました。

<今までの井口さんは、河本さんとの会話のなかで、ツッコミとして自虐や悪口を言ったりしていました。しかし、今回の井口さんは、ボケになっています。「あるなしクイズ」という設定のなかで、河本さんの出題するクイズに井口さんがちゃんと答えないというボケをしていました。

井口さんがツッコミで悪口を言いまくっていたときは、ちょっとトゲが強かった印象がありました。ところが今回は、「クイズに正解する気がない」ボケが1枚乗っかるので、それ自体がおかしみを出し、少しだけ悪口がマイルドな印象になっています。

そして、クイズに答えるアクションを入れるので、セリフの行き先が相方の河本さんになりました。悪口の矛先は世間のはずなのに、セリフの行き先は相方。毒の方向が分散し、その点もマイルドさを加味させています。

もっとも、なかなかの内容の悪口なので、マイルドになったのは本当に少しだけですが(笑)。今まで辛かった料理が、ちょっとした隠し味で「辛くて旨い!」に変化しました>