野田洋次郎が新海誠に送ったキレかけのメール

 さらに、番組内では『すずめの戸締まり』のミミズが東京上空に広がるシーンのビデオコンテも公開された。このコンテを見ながら、野田は音楽を作るのだ。そして、新海はもちろんダメ出しをする。

 なんと、今回は特別に新海と野田のメールでのやり取りも見せてくれるそう。まずは、新海のメールから。

「総じて、めちゃくちゃ素晴らしい!  入り口のメロだけもう少しだけシンプルにわかりやすくできないか。ハミングなのか楽器なのかが曖昧に聴こえてしまうのがもったいない気も。場違いに美しい何か、の印象を強くしたい。 ’41からの合唱スタートの頭には『ドーン』的な楽器も欲しい。 ’58から1’12あたりまで入るピアノのリフ、もうちょっと細かくぞわぞわと盛り上げる雰囲気になっても良いのでは。現状ややまったり感」(新海)

 野田が作るデモ音源を聴かされたら、「バッチリです!」くらいしか言えなくなりそうなものを、さらに注文しまくる新海がすごい。映画やドラマのタイアップ曲は世に溢れているが、これこそが劇伴のあるべき制作の姿だろう。

 あと、新海の指示の細かさである。的確なのだ。『関ジャム』の10月9日放送回で、タイアップ曲の難しさを訴えた秦基博はこう発言している。

「1回(曲を)提出して、戻ってくるときに『もうちょいサビ、“バーン”ときませんか?』とかがすごい多くて。『は!?』って思います。『何を言ってるんだろう?』と思って」(秦)

 クライアントからの抽象的な指示に悩むミュージシャンが多い中、新海の細かさは余計に際立っている。

 ただ、野田も指示に従っているだけではない。『すずめの戸締まり』におけるやり取りの中には、こんなラリーもあった。

「01:09:10ベース開始をこの位置に合わせています。展開はこのあたりからが良いかなと」(新海)

「01:09:10のベース入りはどうしても聴感上も無理くり映像にバチりと合わせている感じが違和感があり(あとシーンにハメようとしすぎなような)できたら現状の方向でいきたいです」(野田)

 ちゃんと抵抗しているのだ。生々しいやり取りである。

野田 「なんか、(メールの内容を)あんまり見せたくないですね(苦笑)」

新海 「ちょっと怒ってらっしゃいますよね(笑)」

野田 「ちょっと怒ってるよね(苦笑)」

 あと、新海のメールで印象的なのは、文頭を必ず「素晴らしいです!」の絶賛から始めているところだ。そして、そこから山のような修正依頼に続いていく。つまり、下出に出てから要望するのだ。「素晴らしい!」という免罪符を出しておいて、そこからグサグサ刺しにいく。

「たまに度が過ぎるのがあって、3~4行褒めちぎってくださって、そこからその倍くらいの修正依頼が(苦笑)」(野田)

「いや、いいのは大前提なんです。……なんで、ここで言い訳をしなくちゃいけないのか(笑)」(新海)

 最高の作品を作りたい思いは、両者ともに同じ。そんな2人の、プライドvsプライドが面白い。あと、野田の楽曲にこれだけ口出しできるのは、新海の実績があってこそだと思う。言いにくいことをはっきり言える性格が、新海のいいところ。そして、野田のようなミュージシャンをクリエイトに導かせるのも監督としての実力である。

新海 「でも、洋次郎さんも、もうOKだと言っているのに、新しい曲を作ってきたりしてましたよ。『天気の子』のときも、全曲揃っていて『もう1曲書いてみました』っていうのをギリギリで上げてきて」

野田 「終盤に差し掛かれば差し掛かるほど、ランナーズ・ハイのような監督も見てますし。自分の役割はドンドン終わっていくんですけど、まだ監督のガソリンになるようなものが作れないかなって。本当に、(新海が)倒れるんじゃないかみたいな姿にもなっていくんで。『俺があと、この映画にできることといえばなんだろうな』と思ったときに、何かしら音を送り続けるというか」

 新海のガソリンのために、使われない音楽の差し入れをしていた野田。贅沢な差し入れである。「俺があと、この映画にできることといえばなんだろうな」、まさに、「愛にできることはまだあるかい 僕にできることはまだあるかい」ではないか。映画音楽の面白さを伝える、至高のコメントだったと思う。

 次回の『関ジャム』では、新海誠作品の映画音楽の特集・後編が放送される。


提供・日刊サイゾー

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