『すずめの戸締まり』主題歌完成までの試行錯誤

『すずめの戸締まり』の主題歌「すずめ feat.十明」(RADWIMPS)の完成までには、いろいろな試行錯誤があったようだ。

「最初、曲の入りを、最終的にそうなっている『ル~ルル~』で作って渡したんですよ。そしたら『入り口はもっと力強く始まりたい』と(新海に)言われたので、まったく違う、多重録音を重ねたような禍々しいイントロをつけて渡したら、結局『1番最初のが良い』みたいな。よくあるんですけど」(野田)

 今回、番組は特別に「すずめ feat.十明」の最初のデモテープと2つ目のデモテープの音源を公開してくれた。まず、デモ①のほうだが、はっきり言ってほとんどこれは完成形だ。見事な出来に聴こえる。その後、「もっと力強く始まりたい」という新海の指示を受けて制作されたデモ②の完成度も、もちろん高かった。ただ、作品の主題歌として合っているか否かで考えると、デモ①のほうが近い感じ?

 最終的に、オープニングの「ル~ルル~」はデモ①から、盛り上がるサビはデモ②から採用し、それらが合わさったのが世に出ている完成形というわけである。紆余曲折を知ったうえで改めて主題歌を聴くと、まさに“完成版!”という印象。なるほど、編曲も極まっている。

「最終的には、デモ②のサビが採用になったので。あの(デモ②の)力強い入り口になったことであのサビが生まれて、両方(①と②)のコンビネーションという感じで」(野田)

 好きなミュージシャンに曲の修正を依頼し、別のサビを作ってもらえるのだから、新海からすればとてつもない快感だろう。

新海が野田に要求した無茶「坂本龍一や久石譲の曲の上書きをしろ」

 野田の曲制作と並行して行われるのは、新海が1年がかりで行うビデオコンテの作成だ。ビデオコンテとは一般的な画コンテとは異なり、セリフや音楽を入れてほぼ実尺で作る映像のことである。

 このビデオコンテで台詞をあてるのは、新海自身。彼の声優っぷりが、めちゃめちゃうまいのだ。

「役者さんに置き換えることを念頭に、役者さんへの指示のつもりも含め、『このくらいの感情でいこう』とか、最初の種みたいなものをまずは自分で作るという感じです」(新海)

『天気の子』で夏美役を務めた本田翼など、本職声優以外の芸能人もうまい声演技ができるのは、このビデオコンテがあるからだろう。

 では、ビデオコンテでの劇伴はどうしているのか? どうやら、最初は既存の曲を入れているらしい。

野田 「これは新海監督の悪い癖で、世界中の名曲をそこにあてがうんですよ。例えば、坂本龍一さんの『戦場のメリークリスマス』とか、久石譲さんのすごい名曲だったり。そりゃあ、いいシーンでしょうよっていう(笑)」

新海 「でも、それを上書きしていく作業ですから」

「坂本龍一や久石譲の上書きをしろ」と、野田に無茶を要求する新海。これはキツい。

 ちなみに、『君の名は。』のビデオコンテを見ると、三葉と瀧が入れ替わりに気付き、「前前前世」が流れるシーンに、RADWIMPSの「君と羊と青」があてられていた。こう見ると、「君と羊と青」バージョンもなかなかいい。ただ、新海からすれば「ここは『君と羊と青』を超える曲を書いてね」という暗黙の要求が出ていた気がする。あと気をつけて聴くと、たしかに「前前前世」はちょっと「君と羊と青」っぽいと思う。