◆古典的な粉ミルク否定説

当時のセミナーの写真を見せてもらうと、そこには「パーム油を使用した、乳児にとって最も危ない食品はコレ」と書かれた衝撃的なスライド。ドクロマークとともに表示されている写真は、森永の粉ミルクだ。森永といえば1955年の森永ヒ素ミルク中毒事件(※)だが、食の安全性を問う消費者の視線は、いまだに厳しいようだ。会場には子の健康を守りたい親たちの必死な気持ちと、自然食品ビジネスの思惑、さまざまなものがからみ合う不穏な空間ができあがっていそうだ。

(※)森永ヒ素ミルク中毒事件:森永乳業製の粉ミルクにヒ素が混入し、飲用した乳幼児が死亡したり、ヒ素中毒患者となった毒物混入事件。日本で起きた食の安全性が問われる事件として、今でも言及されることが多々ある。粉ミルクの原料に使われるパーム油の問題とされる成分については、厚生労働省が「現在の科学的知見においては、これまでと同様に日本人における健康への懸念は低いと考えている」と回答している。

「幸い私は母乳だったので粉ミルクは使う機会がありませんでしたが、やはりその情報は真に受けていましたね。母乳が出なかった自然派ママ友にはは、粉ミルクは毒性が強いというその情報を信じ、ヤギのミルクを取り寄せしている人もいました」

◆駐妻たちのDIY精神

調味料は、手作りも定番だった。味噌や醤油を手作りするワークショップにも通ったという。食に限らず、自然派暮らしにDIYはつきものだ。

「夫の海外赴任先でも、自然派コミュニティで集まって味噌づくりをしながら情報交換をしていましたからね。インドネシアで大豆を蒸してせっせとつぶしていた私たち、気合入っていますよね」

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またも見せてもらった写真には、味噌のレシピを手にラグジュアリーな空間に集っているエレガントなマダムたち。妙にシュールである。

「駐在妻は孤独になりがちなので、何かと集います。そのコミュニティへ、現地に移住している、事情通の日本人も関わってくる。駐在先のインドネシアは自然豊かな場所なので、移住している日本人たちも自然派が多かった。すると、自然派に興味がない人たちも、感化されていくんですよ。移住者たちは現地で顔が効くし頼れる存在だし、本人たちはそのつもりがなくても、おのずとボス的なポジションになります。そしてみんながボスの嗜好に感化され、自然派寄りになっていく。そんなケースもよく見かけました」