激しい怒りが込められた、時代や性別を超える旅路
本作には原作となる小説がある。今ノーベル賞に最も近い作家と称賛されるアニー・エルノーが、自身の経験した実話を基に書き上げた『事件』だ。ディヴァン監督はエルノーと深い対話を重ね、脚本へのアドバイスも受け、完成した作品に「真実の映画を作った」という破格の賛辞を贈られたという。
ディヴァン監督が原作小説を読んで、まず頭に浮かんだのは「激しい怒り」だったそうだ。そして、「妊娠を告げられた瞬間から、苦しみを受けたに違いない少女の体や、彼女が直面したジレンマに対する理不尽さに憤りを覚え、そして、命をかけて中絶するのか、それとも子供を産んで自分の未来を犠牲にするのか。私はそれをイメージに変換しようとしました。そのプロセスは、物語を身体的な体験に変えるものです。きっと時代や性別を超えることができる、旅路になっていると思います」とも語っている。
さらに、ディヴァン監督は、80歳を超え今なお癒えていない痛みと激しい悲しみを背負ったエルノーの涙を思い出しながら、脚本を書き始めていたそうだ。その甲斐あって、まさに「時代や性別を超える旅路」という言葉通りの作品を作り上げることに成功したのだろう。
また、劇中では1960年代という時代ならではの(あるいは今でもある)女性を軽んじるような風潮、男尊女卑的な価値観もつぶさに垣間見えるようになっている。主人公を取り巻く不遜で不誠実な男性たちの言動には、男性こそ居心地が悪くなるだろうが、それも「激しい怒り」が込められた作品に必要なものだ。
ぜひ、男性こそ本作で(妊娠や中絶に関わること以外でも)女性の痛みや苦しさを体感し、そしてどのようにその気持ちと接すればいいのか、その考えの一助にしていただきたい
『あのこと』
12月2日(金)Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー
監督:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ『ヴィオレッタ』、サンドリーヌ・ボネール『仕立て屋の恋』
原作:アニー・エルノー「事件」
配給:ギャガ
2021/フランス映画/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/100分/翻訳:丸山垂穂
C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA – WILD BUNCH – SRAB FILM
提供・日刊サイゾー
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