◆忘れ物をとりにいったら、今あるものの良さに気づいて

夕方までの限定ながら1週間、智也とデートを重ねたちはる。最後の夜、拘束時間が過ぎてから智也は初めて素を見せ、ちはるをホテルに誘う。ようやく思いが叶ったとき、ちはるはかつて夫が示してくれた愛情ある言動を思い出す。

そのころ、ちはるの夫の祐樹は、自分の浮気を妻が知っていることに気づいた。大事なものを失おうとしている現実に、彼は初めて目が覚める。

自分が「妻子を養っている」からこそ、上から目線になる男性は今も少なくない。女性活躍と言いながら、男女の賃金格差は縮まらない。もっと女性に経済力がつけば、あるいはシングルマザーになっても暮らしていける目処がたてば、離婚はもっと増えるだろうし、女性はさらに活躍できるようになるのかもしれない。そんな揺り戻しのあと、ようやく男女は同じ目線で語りあえるのではないだろうか。

ちはる自身がそうであったように、結婚生活が長くなると、単に時間を過ごしていくだけのように思いがちだが、実際には時間は積み重なっていくものだ。だが積み重なるものが多くになるにつれ、いちばん下にあるものが見えなくなっていく。ちはるは「適当に結婚しただけ」と感じていたが、思い起こせば祐樹との間には確たる愛情があった。それに気づけるかどうかで夫婦が再生できるかどうかが決まっていく。

◆浮気してみてわかったのは、まだ女としてイケるということ

智也という男のために自分の貯金を使い果たしてちはるが得たものは、夫への愛情だった。いい話というべきか皮肉な話と言うべきか。ちはるは夫しか知らなかったため、比較対象がなかった。似たような経験をしたアズサさん(仮名・39歳)はこう言う。

「浮気してみてわかったのは、自分がまだ女としてイケるということでした」

主婦
写真はイメージです。(以下同じ)
結婚して10年、8歳と5歳の子を育てながらパートとして働いてもいる。毎日、朝からくるくると忙しく働き、夜は子どもを寝かしつけるとぐったりしてしまう。夫が帰宅したときは自分も寝落ちしているのが現状。アラフォーになって、鏡の向こうには疲れて目がくぼんだ自分がいる。