◆チルな肘打ち

岩田剛典
 すでに単独でのソロライブツアーを成功させている今市と登坂広臣(ØMI)だが、岩田にとっては、今回がソロ初のライブ。しかもソロシンガーとしては1年目。EXILEと三代目JSBのパフォーマーであり、俳優業でも目覚ましい彼が、どんなライブパフォーマンスをするのか、期待は甘くふくらむばかりだったが、さっきの魔術的なMCトークに象徴されているように、彼は驚くほど脱力していた。相当意気込んでいるはずなのに、力んでいる様子はまったく感じないのだ。

 それが特に顕著だったのが「Keep It Up」。コーラスで煌(きら)めいた。次のフレーズのあいまに一瞬さっと、マイクを持った左手のひじを右手拳で打ったのだ。これは「心を大切にしてほしい」とMCで客席に愛を込める岩ちゃんのメッセージを伝える仕草だが、岩田がルーツとするKRUMPのダンス最中に情熱的に突き上げた自分の胸を打つあの動きの緩やかなアレンジ。

 この胸打ちならぬ、チルなひじ打ちが、たとえばブルーズの巨人B.B.キングが途中からヴォーカルもギターも中断して、ステージ上のグルーヴの中で、左手の平を右手拳で打ってただリズムをとるだけになるように、アイコニックで静かなるアクロバティックを印象づける。こういうさりげないところに、超一流のアーティストの才覚が息づくように思う。

◆ボーダーレスな岩田剛典感

 基本的に岩田のソロ楽曲は、チルなポップスとは言えそうだが、ジャンルの定義が難しい。彼がモットーにしてる「take it easy」的に、焦らない、焦らない、ゆったり、まったりが、その基本姿勢。インコグニートに代表されるアシッドジャズとも言われたりするが、まあ今の段階で、そんなに焦って定義づける必要もない。肩の力を抜いて、ちょい脱力気味くらいがちょうどよい気がする。ゆったりまったりな音楽の中で、ボーダーレスな岩田剛典感を楽しめば、それでいい。

 客席でもほんとうにちゃんとそのことを理解している雰囲気だった。というのも、筆者が本コラムを書くためにメモを取っていると、隣の席の女性ふたり(まったくの初対面!)が、とても気さくな笑顔をこちらに投げかけてさりげなくペンライトで手元を照らしてくれたのだ。いいなあ、このチルな緩さ。岩田にとっての「the only one」であるファンもまたこうしてボーダーレスで温かく、チルな基本姿勢にならっていた。