◆ヨコノリとタテノリで大盛り上がりの客席
「Rock」という言葉の用法としてだけでなく、音楽的にもロック(ロックンロール)的なバンドサウンドを取り込むことで、今市は、第2章『~Rock With You~』を駆け抜ける。ライブのファーストアクトは、早速「Don’t Give Up」ときた。スローからミッドテンポのトラックによって客席には、R&Bのリズムが促す静かなヨコ揺れ(ヨコノリ)が生じる。翻って曲調がアップテンポになり、今度はタテ揺れ(タテノリ)が激しく身体を上下に振る。会場全体がロックな雰囲気に包まれ、会場は夏のフェスさながらに。
1stアルバム『LIGHT>DARKNESS』(2018年リリース)からも印象的なナンバーが。曲のイントロ前には、KC&ザ・サンシャイン・バンドが1975年にリリースした全米No.1ディスコナンバー「Tha’s The Way(I Like It)」の軽妙なリフが繰り返されて、大盛り上がり。ギターリフの前奏から、筆者の大のお気に入り、猛烈ヘビロナンバー「Highway to the moon」への流れるような導入とする。サビ前、「FMから favorite song」の歌詞を聴くと、身体がずきずきするくらいノレル。コーラス(サビ)の歌詞には「Rock & Soul かき鳴らす Guitarのリフレイン」とあるくらい。ヨコへ、タテへ、楽しくノリ方が変わる。
YouTube配信でもおなじみの「RILY’S ROOM」トーク企画で、念願だった観客とのコミュニケーションをはかったあとは、「Nord Stage 2」(キーボード)の前に座り、バックバンドとセッション。軽やかなタッチのグリッサンドが鍵盤から溢れ出し、ギターソロを呼び込む。「R&B」と「Rock」との邂逅を果たした今市は、まるで怖いものなし、音楽的に盛りだくさんのライブパフォーマンスを駆け抜けた。
◆今市隆二のすべてを物語るもの
今回のライブでは重低音のビートが、ずしんずしんとかなり強く振動してきたが、歌詞を耳でキャッチすることも忘れなかった。今市が作詞に初挑戦したのは、三代目JSBの5thアルバム『PLANET SEVEN』(2015年リリース)に収録された「PRIDE」だった。作詞第2作、記念すべきソロ初楽曲「ALL LOVE」も同アルバム収録曲。「すべてを愛して」と書かれたように、そのときの自分が感じる等身大の「愛のテーマ」になった。
2018年に1stシングル「ONE DAY」でソロデビューしてから、4年以上が経つ中で、彼の歌詞世界は、ストレートながら奥行きを持たせてきた。三代目JSBのデビューからは丸12年。ヴォーカリストとして、音楽をこよなく愛するひとりのアーティストとして、こんなにも楽しげで、自由闊達で、豊かな表現性を磨き上げた。
ライブMCでは客席へ何度も「ありがとう」と口にしていた。客席は温かい拍手で応じる。何度も何度も、そんなやり取りが繰り返された。「ありがとう」が持つシンプルな言葉の響きは、音楽(R&B)そのものに対して、客席のファンに対してストレートな愛を表明してはばからない今市には、ぴったりな言葉である。
正直でシンプルな温かみのある人柄をにじませながら、そしてときに涙を浮かべて瞳を潤ませる。2017年に敬愛するブライアン・マックナイトのLAの自宅で共作した「Thank you」を歌うアンコールは、今市隆二のすべてを物語る瞬間だった。その思いもまた、R&Bマナーを守り続ける隆二さんなりのChanging sameなもの。
<取材・文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu