◆孤軍奮闘するひとりのアーティスト像

 80sの香り高い『CHAOS CITY』にしろ、『GOOD OLD FUTURE』にしろ、ソロアーティストとしての今市隆二の創作態度の基本には、温故知新的なもの、「古きを温めて新しきを知る」精神がある。古いものへのリスペクトから新しいものをつくると言葉で言うのは簡単である。でもそれが実作となると、だが、単に現在から逆行するだけのノスタルジーになりかねないリスクだってある。

 既存の楽曲をサンプリングする文化が当たり前、それがパクリではなく、むしろ過去のアーティストに対する深いリスペクトになる海外だと、温故知新的な優れたアーティストはたくさんいる。過去から現在へ、そこからさらに未来へと、自分の作品を繋ごうとする今市隆二のアーティスティックな意志と努力もまた、それだけで美しい。

 彼の音楽に対する折り目正しく誠実な態度からは、アメリカの古典的R&Bに思いを馳せながら、孤軍奮闘するひとりのアーティスト像が浮かぶ。

◆R&B的な音色が織り込まれたトラック

『GOOD OLD FUTURE』のファーストトラック「Don’t Give Up」を聴くと、ピアノソロが印象的なイントロから、ものすごくR&B的なビートを刻む電子的なバスドラムのキック音が伝わる。それもそのはず。この曲をプロデュースしたのが、アニタ・ベイカーやビヨンセへの楽曲提供で知られるゴードン・チェンバースと、LDHではおなじみのT.kura&michikoコンビなのだから。

 そんな最強のプロデュース陣が紡ぐR&Bの音色が特徴づけれたバックトラックに対して、今市の歌唱は、絶妙な対話を繰り広げている。ここにソロアーティストとしてのひとつの洗練の極みを見た。

 続く2ndトラック「ROMEO + JULIET」は、トラックタイトル自体、もろレオナルド・ディカプリオ主演、バズ・ラーマン版のロミジュリ映画『ロミオ+ジュリエット』(1996年)にインスパイアされている。こういうさりげない目配せ、自分の好きな映画から曲のテーマと歌詞を着想するあたり、ああ、隆二さんらしいなと思う。アルバムに並んだ各トラックのタイトルを眺めているだけでもすでにワクワクする。

 リード曲「CASTLE OF SAND」は、R&Bマナー炸裂で、渾身のスローナンバー。今市が愛するR&Bとしっかり腰を据えて向き合い、どのトラックにも細かく音色を織り込んでいるこのアルバムが、リスナーの身体を熱く火照らせるには十分なリード曲だ。