◆普遍的な「自分以外の誰かになりたい」という願い

©2022「ある男」製作委員会
 この『ある男』は「自分以外の誰かになりたい」という、ある意味では普遍的な願望を描いた寓話(教訓を与える物語)とも言える。窪田正孝演じる謎の男「X」が抱えていた深刻な事情はもちろん、妻夫木聡演じる弁護士は在日韓国人三世であり人種差別的な言動に敏感になっていたりもするのだから。

 そうした例に限らず、現状の自分にコンプレックスを持ってしまい、他の誰かの境遇をうらやましく思う、いや「その人になってみたい」というのは、やはり大なり小なり誰もが一度は思ってしまうことだろう。その願望に対し、一元化した答えを出さず、人それぞれが主体的に考えられる「宿題」を持ち帰ることができるのも、本作の意義だ。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

「女子SPA!」のほか「日刊サイゾー」「cinemas PLUS」「ねとらぼ」などで映画紹介記事を執筆中の映画ライター。Twitter:@HinatakaJeF