◆かわいらしく、いいお父さんぶりも見せる

©2022「ある男」製作委員会
 例えば、今回の窪田正孝は停電が起こった時に冷静な対応をしてくれる様から信頼できるし、とあるきっかけを作っておいてからたどたどしく「友達になってくれませんか」とお願いする様がかわいい。その直後に、安藤サクラと窪田正孝が「当たり前のこと」についてクスクスと笑い合う様を見れば、誰もが「幸せになって!」と思えるだろう。

 さらなる推しポイントは、窪田正孝が安藤サクラへ「過去の離婚の理由」を聞いたときのことだ。それぞれの表情と、ツラい出来事を聞いてこその窪田正孝の行動を思えば、「ここで2人は一生ものの絆を得た」と思えたのだから。

 その後の、連れ子の気持ちに寄り添っての「いいお父さん」そのものな言動も、「こういう窪田正孝が見たかった……!」という理想を叶えてくれたかのようだった。

◆役作りで「自分の喉元を切るような感覚に」

 だが、窪田正孝演じる謎の男Xは、車の中で急に泣き出してしまう(その理由は後に判明する)など、「安藤サクラ演じる里枝と同じかそれ以上にツラい過去があったのではないか」と思わせるところがある。今に至るまで完全には拭い去れない絶望を味わったことが、その表情や振る舞いから垣間見えるのだ。

 窪田正孝がこの役を演じる上でヒントになったのは、撮影に入る前の準備で実際に森へ行き、木を初めて切ったことだったそうだ。そこで彼は「自分の喉元を切るような感覚になり、命を絶つというのはこういうことなのかと、植物から命の重さを感じさせられた気がした」と思ったという(プレス資料より)。

 林業に従事するというだけでなく、狂気的ですらある危うさも持ち合わせた男の役作りにおいて、その内面とリンクする「命の重さ」を思うこと……そうしたところに窪田正孝の俳優としての鋭さと感受性の豊かさがあり、やはり演じる役への説得力へと繋がったのだろう。