【今週の一冊】

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」岸田奈美著、小学館、2020年

書籍との出会いはいつも偶然。たまたまネットで岸田奈美さんのお母様のことを動画で拝見したのが始まりでした。お母様の岸田ひろ実さんはご主人を病気で亡くされ、奈美さんとダウン症の息子・良太さんを一人で育てておられました。ところがひろ実さんご自身が難病に見舞われ車いす生活となってしまったのです。そのエピソードが以下のTEDトークにて説明されています:

この動画を観て、母親を支える奈美さんに関心が高まり手に取ったのが本書です。

ちなみに岸田家は上記の3人に加えて、認知症に見舞われたおばあちゃんも一緒に暮らしています。つまりフットワークが一番軽いのは奈美さんだけ。フツーの観点からしたら絶望してしまうような状況ですが、それを笑いとパワーに変えています。本書は単なる家族日記ではありません。日常生活のささやかなことを楽しく、かつ、体当たりで解釈する奈美さんの姿に読者は励まされるはずです。

私の心に刺さったフレーズは実にたくさんありました。いくつかご紹介しましょう。

「生まれるときに、親を選ぶことはだれにもできない。でも、パートナーを選ぶことはだれでもできる。自分が選んだパートナーこそが、家族の最小単位だ。」

「家族は選択できないものから、選択できるものになっている。自分によい影響を与える人の存在は、自分で選ぶことができる」(いずれもp198)

今の時代、家族、とりわけ実親との関係に悩む人は少なくありません。自分の生きづらさの根源にあるのが家族問題とも言えます。とりわけ儒教精神や長幼の序を重んじる日本において、子どもたちはたとえ親との関係に苦しんでも「親孝行せねば」「自分さえ我慢すれば」と自らを追い込んでしまいます。

でも岸田さんの言うように、相手が親であるかにかかわらず、自分に良い影響を与えてくれる人は自分で選べるのが人生なのですよね。たとえ自分が親子関係で不遇の時代を過ごしたとしても、今からでも遅くありません。自分を大切にしてくれる人が身近にいるならば、その人を精一杯大切にすれば良いのだと思います。

岸田さんはタイトルにある通り、「家族」だからという理由だけで自分の家族を強制的に愛したのではありません。自分に良い影響を与えてくれる人がたまたま「家族」だった。だからその家族を全力で愛しているのです。

「好きな自分でいられる人との関係性だけを、大切にしていく」(p220)ということばを、親子関係に悩むすべての「子どもたち」に私は贈りたいと思います。


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