2022年3月4日より、同名小説を映画化した『余命10年』が公開されている。
©2022映画「余命10年」製作委員会
本作では「坂口健太郎はすごい俳優だ!」と改めて思い知らされた。「余命宣告もの」が苦手な人にもおすすめできる理由、作り手のスタンスなども含めて、高い完成度を誇るこの映画の魅力を解説していこう。
坂口健太郎の「熟考」が伝わる熱演
本作における坂口健太郎は、まず「言葉にしなくても、複雑な考えを巡らせていることが伝わってくる」ことが素晴らしい。
彼は小松菜奈演じる主人公と恋人になっていくのだが、しばらくは深刻な病のことはもちろん、余命10年であることも知らされないままでいる。やがて彼女が理不尽なまでの突っぱねる態度を取るため、当然「なんで彼女はこんなことをするんだ?」と疑問を持つことになる。その過程で、坂口健太郎の顔をアップでじっくりと見せており、彼の「熟考」がその表情の劇的なまでの変化からわかるようになっているのだ。
坂口健太郎の元来の親しみやすい雰囲気、そして時折浮かべる朗らかな笑顔そのものが愛おしくてたまらないことに加え、主人公に「どう向き合うか」と深く思慮をめぐらせ、常に最善の方法を選び取ろうとしている様がありありと伝わってくるため、こちらは「そこまで真剣に考えてくれるなら、惚れてしまうだろ!」と思わざるを得なくなる。
坂口健太郎のイメージとのギャップを生かした役柄
これまで坂口健太郎は『今夜、ロマンス劇場で』(2018)や『仮面病棟』(2020)などでもパートナーとなる女性のために奔走するマジメな役に扮しており、一方で『俺物語!!』(2015)のようにひょうひょうとした雰囲気をまとう親友役、はたまた『ナラタージュ』(2017)のように独善的で少し怖くもある青年も、普段の優しそうなイメージも逆手に取ったかのように見事に演じていた。
今回の『余命10年』での役柄は、後述するように自殺未遂をしてしまうほどの重い悩みを持っているからこそ、前述した熟考する様や、元来の誠実な印象のギャップもあいまって、「放っておけない」という母性本能をくすぐってくれる。
坂口健太郎のパーソナリティが最大限に生かされた、キャリア史上最大のハマり役だと断言しよう。