「隣のおばさん」に体を売っていた過去と向き合う

 そして「隣のおばさん」に体を売っていた千秋は、自分の過去に自分がいちばん傷ついていたことをようやく自覚する。

 売れ線を狙わずに自分が描きたい漫画を描けと忍に言われ、彼のペンに勢いがつく。自分の過去と向き合って、それを漫画にする覚悟ができたのだ。それは自分を開示することであり、いちばん隠しておきたいことを世にさらすことにつながる。それでも彼がそうせざるを得なかったのは、「忍と一緒になりたい」一心だった。一方で、忍はやはり息子に恥じない生き方をしたい思いが強まり、千秋に別れを告げる。

 興味深かったのは、忍が夫の洋平に「好きでもないのにどうして嫉妬したりセックスしたりしようとするの?」と尋ねるシーンだ。洋平は一瞬、言葉に詰まったあと、「おまえこそオレのこと好きじゃねえじゃねえかよ」と吐き捨てる。そしてふたりとも笑い出す。それは絶望的な乾いた笑いだった。もう、どうにもならない亀裂をようやくふたり一緒に見た瞬間だ。