以前、ある勉強会で出てきた文章に良い例がありました。2020年の記事だったかと思いますが、コロナ禍による米国経済への影響について書かれた文章で fiscal-stimulus measures have largely lapsed, and negotiations on a new relief package have repeatedly broken down という説明が出てきました。ここで問題にしたいのは下線部で、DeepLに訳させたところ、「新たな救済策の交渉は何度も決裂している」となりました。packageを「策」とし、negotiationsが主語であることを受けてbreak downに「決裂」という表現を充てたところは、さすがDeepLです。しかし、必要な調査を行い、前後の文脈も勘案して捻り出したわたしの最終訳は、「追加の景気支援策を巡る民主・共和党間の協議が何度も決裂している」でした。
前後の文脈を考えれば、new relief packageは、コロナ禍を受け、景気を下支えするために政府が打った何度目かの方策であることは明らかでしたので、「追加の景気支援策」としました。またそれを巡るnegotiationsで、その当時までに何度もbroken downしているものと言えば、「議会での民主党と共和党(与野党)の協議」でしたので、これも補足しました。
文前半で財政刺激策のことに言及があるので、「新たな救済策の交渉は何度も決裂している」でもピンとくる人はいるかもしれませんが、普通に日本に暮らし、米国の情報は時々新聞やテレビで見るだけ、という程度の人に、この訳だけですべてを分かれと言っても無理な話です(逆に言えば、米国に暮らし、普段から米国の政治情勢に(英語で)触れている人であれば、negotiations on a new relief packageだけで十分分かる、ということなのでしょう)。
わたしが思うに、現時点でAIに決してできないことは、この種の「読み手の受け取り方や知識レベルを考えた付加価値サービス」です。先ほども申しました、訳文の堅さや漢字・ひらがなの割合、つまり訳文が載る媒体に相応しい文章表現にできるかという問題は、もしかすると今後の学習次第で解決するかもしれません。しかし「想定される読み手が理解しやすいか考えながら訳文を作成し、必要であれば補足したり省略したりする」ようなきめ細かな芸当は、AI自身が実際に人間社会の中で暮らして学習しない限り、相当に難しいのではないか、と思います。
逆に言えば人間の翻訳者は、そこまでのサービスを提供しない限り、早晩AIに仕事を奪われることは100%間違いないと考えます。がんばりましょう、ニンゲン。
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