自分の脳が納得する声が本物の声
――興味深いですね。それはなぜでしょう?
山崎「自分の本当の声には、自分が大切にしてきた本音や個性が表れます。日本では『女性は高く可愛らしい声で話すべし』という価値観が浸透していますが、それに屈せず、自分が出していて気持ちよいと感じられる声が、その人の本来の個性豊かな声なんです。しかし、私たちは話す“内容”にばかりとらわれていて、自分がどんな“声”で話しているかは意識しませんよね」
――はい。それに多くの人が自分の声に違和感を覚えているのではないでしょうか? 私も取材の文字起こしをするときに自分の声を聞くのですが、自分じゃないみたいですごく嫌です。
山崎「自分が話しながら聞く自分の声は、録音とは違って聞こえます。それは頭蓋骨などを通して自分の中から聞こえてくる声と、空気を伝わって耳から入ってくる声が混ざっているからです。録音した声は空気伝導だけなので、ちょっと薄く高めに聞こえるんですね。加えて、自分の声に嫌悪感を抱いてしまうのは、“その声を出していたときの感情”がわかるから。録音した自分の声を聞いて違和感を覚えるのは普通ですが、自分の声が嫌いな人はその声に自分が納得していないということなんです」
自分の本物の声「オーセンティック・ヴォイス」の見つけ方
――そういう場合はどうすればよいのでしょう?
山崎「そんな方には自分の本物の声、『オーセンティック・ヴォイス』を見つけることをおすすめしています。会社でのプレゼン、同僚と話すとき、家族と話すとき、友人と会っているときなど、色々な場面で10分から20分間ほどスマホなどで録音してみましょう。最初は自分の声を聞いてがっくりするかもしれませんが、そこでつまずかず、時間が取れる限り、何度も聞いて自分の声に慣れてください。そうして、声を出したときの自分の状態や思いを振り返ります。そうすると『自分はこう思ったときにこんな声を出しているんだ』とわかります。これは自分自身に向き合う作業でもあります。
次に、たくさん録音した声の『音』のなかから、本能的に『好き、快い』と思う音をみつけてください。いいなと思った声はあれこれ考えずに、すぐその声を出してみて録音する。そしてまた『いいなと思う声』を探す。見つからなかったら、録音するときに普段より少しゆっくりめに、そして、少し低めに話すことを意識してみてください。これを繰り返すことで、『自分の脳が納得する声』であるオーセンティック・ヴォイスを発見することができます」