日本人は「お金」の話を他人にするのは賤しいこと、といつからか刷り込まれ、「武士は食わねど高楊枝」など、お金以上に大切な心意気を大切にする気概が美徳と言われてきた。

しかし、世の中が複雑化、多様化していく中で、日本人はあまりにもお金のことを知らなすぎるのではないだろうか。実際、義務教育で一般的なお金に関する授業を受けた経験のある方々は、そんなに多くはないのが現状だ。ここでは、日本人の金融教育の現状を確認したあとで、実際に年収と金融リテラシーにはどれくらい関係があるのかを見ていこう。

日本人のマネー教育不足

日本FP協会では、全国の中学校、高校に専門のインストラクターによる出張授業を提案し、生徒たちにお金の知識の普及、パーソナルファイナンス教育に努めている。一人ひとりの生き方に沿った最適なライフプランをイメージし、それに一体いくらかかるのかなど、具体的な事例を話している。講師の派遣費用やテキストなどは全部FP協会側が用意するので、学校側が提供するのは場所と時間だけである。

しかし、この制度を使っている学校は、あまり多くないようだ。なぜなら、貴重な時間を少しでも受験関連科目の勉強に充て、将来のお金の知識など後回しだという学校が多いと聞く。確かに2~3時間程度の時間で効果があるのかどうか、疑心暗鬼になるのもわからなくない。しかし、社会に出るまで給与明細の見方すら分からないのは、いかがなものか。天引きされている社会保険料や税金が年間一体いくらで、その使い道がどうなっているのかを知識として持つことは、当然必要なことだ。

特にサラリーマンの場合、自動的に源泉徴収されるので、改めて自分の給与から年間いくらの所得税や住民税を払い、さらに健康保険料、厚生年金、雇用保険を払っているのか、全く気にしない人も少なくない。このことが、自分たちが収めた税金への無関心につながり、ひいては投票率の低下、政治への無関心につながっている、とは言い過ぎだろうか。

年収・金融資産とマネーリテラシーには明確な差

今年6月に「金融広報中央委員会」(事務局は日銀)がまとめた「金融リテラシー調査2016」が話題を呼んでいる。お金に関する基礎知識に関して、都道府県別に人口構成に合わせて18歳~79歳の2万5千人を対象としたネット調査だ。

例えば、「人生の3大資金とは何か」「金利が上がると債券価格はどうなる」といった金融の基礎的な知識を質問して採点した。その結果、東日本では山梨県、西日本では沖縄県が最も低かったそうだ。山梨県は、昔ながらの金銭の互助組織の「無尽」、また沖縄県は父方の血縁関係が強い「門中」があり、何かあるときにはその結びつきでお互い助け合うので個々人のお金に関する知識が必要ないのでは、という興味深い分析結果が出ている。

さらにこの調査結果を深く見ていくと、年収・資産の高低が正答率に明確に現れていることが分かる。年収でみると、年収250万円までの層の正答率が50.9%なのに対して、年収1500万円以上の正答率は66.3%となっている。また、金融資産の金額別で見ても、資産250万円までの層の正答率が56.7%なのに対して、資産2000万円以上の正答率は73.5%となっている。

そもそも、金融リテラシーとは何を指すのか?

次にこの調査の「金融リテラシー」とは、いったい何を意味するのだろうか。日本証券業協会によると、「金融に関する知識や情報を正しく理解し、自らが主体的に判断することのできる能力であり、社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送っていく上で欠かせない生活スキルです。国民一人ひとりが金融リテラシーを身に付けることは、健全で質の高い金融商品の供給を促し、我が国の家計金融資産の有効活用につながることが期待されます。」(日本証券業協会HPより)と定義されている。

インターネットの普及などにより、ますます複雑化する世の中で、社会人として健全な生活を送れる最低限の金融知識のことを金融リテラシーと総称している。今後人工知能の進歩や仮想通貨の広まりなど、将来の金融システムの変化の在り方に、ある程度の予見を身に着けることが重要だ。

身につけるべき金融リテラシーは「4分野、15項目」

一方、金融庁「金融経済教育研究会」で、最低限身につけるべき金融リテラシーを4分野(家計管理、生活設計、金融知識及び金融経済事情の理解、外部の知見の適切な活用)、15項目を挙げている。その主な項目は、家計の適切な収益管理、インターネット取引の注意点、保険でカバーすべき範囲の認識、住宅ローンを組む時の注意点、金融商品を選ぶ際のリスクとリターンの関係、長期分散投資の効力の理解などである。

金融知識はそれぞれが複雑に絡み合っている。例えば、住宅ローンの選択時、どの金融機関から借りるかに始まって、期間、金額を決め、商品選択の段階で、金利の種類までも我々自身が決定しなければならない。住宅ローンひとつを選択するのに、金利動向まで視野に入れて考える必要があるのだ。そしてこの選択を間違えると、将来かなり大きな差として現れる可能性も出てくる。

金融リテラシーの有無が、将来の資産形成に大きく関わってくる時代に我々は生きている。いろいろな情報源から知識を吸収し、将来の不安を払拭できるくらいの資産形成を目指したい。

文・中村伸一(マネーデザイン代表取締役社長)/ZUU online

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