さまざまなキャラクターに果敢に挑み、30代前半にして『娼年』『孤狼の血』『新聞記者』など、多くの代表作を持つ俳優・松坂桃李さん(33)。現在は、「2020年本屋大賞」で大賞を受賞した凪良ゆうさんの小説を、『フラガール』『悪人』『怒り』の李相日監督が映画化した『流浪の月』が全国公開中です。
『流浪の月』より
かつて大雨の中、家に帰りたがらない少女を自分の部屋に入れたために誘拐罪で逮捕された男・文と、元被害女児と呼ばれて生きて来た更紗(広瀬すず)の、15年後の思わぬ再会から生まれるドラマを見つめていく本作。クライマックスで露わになる文の肉体への壮絶な役作りも話題になっている松坂さんに、そうした「役作り」に思うことや、本作にも通じる、そのままの自分を受け入れてくれる相手との巡り会いに思うことなどを聞きました。
一番ハードルが高い役になるだろうと思った
『流浪の月』より
――幅広い役柄を演じられていますが、今回の文も難役です。
松坂桃李さん(以下、松坂)「これまで演じてきた役の中で、一番ハードルが高いと思いました。こんなに大変そうなハードルに挑む必要があるのかと。役もですし、もともとご一緒したかった李さんが撮影監督のホン・ギョンピョさん(『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』)とタッグを組む作品に自分が飛び込むということ自体、もっともハードルが高いだろうと思いました。
でも30代前半の今、自分にとって宝物のような現場になるだろうという確信もあって、最初からやりたいと決めていました。そして実際に李さんと初めてお会いしてお話しさせていただいたとき、心強い人だな、すごく信頼できるなと感じて、『この人とだったら、どんな作品でも乗り越えることができる』と実感しました」
文になるために、思いつく限りのすべてのことをした
――体を絞ったりといった役作りも壮絶だったかと。現場に入るまでに、どんなことをされたのでしょう。
松坂「今現在の自分が思いつく限りのことを、すべてやらせていただきました。具体的には、原作と台本をひたすら読んで読んで、読み込んで、自分のなかで文と向き合う時間をきちんと作ることができたことが一番大きかったかなと思います。
15年後の文が珈琲店を営んでいるということで、焙煎から淹れ方などの練習をしたり、かつて文が住んでいたアパートに実際に寝泊まりさせていただいたり、それから体を絞ることなどもしましたが、そういったことは、僕が文と向き合う時間を手助けしてくれるオプションみたいなものです」