先週末、イギリスの翻訳通訳協会が開催するOne day in … Gray’s Innというイベントに行ってきました。由緒ある英国らしい素敵な建物で講演や夕食会があり、美しい庭園ではランチやドリンクを頂きながら他の通訳者や翻訳者とのネットワーキングを楽しみました。

この日の講演で一番印象に残ったのは、Lynne Murphy(『The Prodigal Tongue』の著者)さんがアメリカ英語とイギリス英語の関係について話されていたことです。私は渡英して20年になりましたが、元々は日本の中高でアメリカ英語を学び、大学は「英米語学科」を卒業(在学中に1年間アメリカ留学)、そのあと英語講師になりましたが、教材はすべてアメリカ英語。一生懸命真似して覚えたアメリカ英語を話していたので、渡英前はイギリス人にアメリカなまりでいじめられる夢も見たくらいです。ですから、アメリカ英語は私にとって関西弁のような懐かしさがあります。

イギリス人とアメリカ人は他の国(ドイツ人やフランス人)に比べると、お互いに好意を抱いているようですが、「共通言語」の「英語」に関しての感情はとても複雑です。『The Prodigal Tongue』の表紙もアメリカとイギリスではこのように(参照ページ)絵が異なるだけでなく、サブタイトルがアメリカ版では、the love-hate relationship between American and British Englishですが、イギリス版ではthe love-hate relationship between British and American Englishと語順が異なります。

イギリスでは “Americans have ruined the English language(アメリカ人が英語を台無しにした)”とか、”British children turn to American English(イギリスの子供、アメリカ英語に走る)”などが見出しになるようにアメリカ英語化を嘆く人が多くいます(turn toは、turn to alcohol/drugsのように「(悪に)走る」のニュアンス)。特に年配の人たちは、自分たちの英語を格上と見なしアメリカ英語を見下す傾向があります。

アメリカ英語とイギリス英語は、発音や単語の違いだけでなく、表現の仕方が微妙に違ったり、同じ言葉でもニュアンスが違ったりするのでややこしいこともよくあります。

例えば、「エレベーター」のことを米語ではelevatorだけど英国ではlift、「歩道」はsidewalk(米)、pavement(英)などという単語の違いや、labor(米)とlabour(英)、recognize(米)/recognise(英)のようなスペルの違いはよく知られていると思います。

ニュアンスの違いではquiteがアメリカ英語では「とても」とほめ言葉に使われるのに対し、イギリスでは「まあまあ」になるので要注意です。例:quite goodは「とても良かった(米)」「まあまあだったね(英)」

今回の講演で初めて知ったのは、pleaseの用法の違いです。イギリスではレストランで注文するときCan/May I have a XXX pleaseのようにpleaseを付けないと失礼な客だと思われますが、アメリカでは「pleaseをわざわざ言わなくてもちゃんとやってあげますよ」という暗黙の認識があり、付けると返って失礼に聞こえるとか?! 逆にイギリスでCan I get a coffee?  のようにpleaseを付けないことに加え、haveの代わりにgetで注文するとイギリス人店員をイラっとさせるそうです。

「グローバル化が進む今日、アメリカ英語とイギリス英語も収れんしているのか?」というトピックも興味深かったです。皆さんは、どう思われますか。

ワープロのスペルチェック機能が開発されたのはアメリカだったため、元々はスペルチェック機能というのはアメリカ英語しかなかったとのこと。それで、一時期は特にスペルという点ではアメリカ英語に統一されつつあったそうですが、最近ではイギリス英語でスペルチェックができるのでイギリス英語で書かれた文書が増えているそうです。また、新たに生み出される語もアメリカとイギリスでは異なることが多く、格差は広がっているとのことでした。

このようにイギリス在住で「英語」の研究をしているアメリカ人学者の視点はとても興味深いです。The Prodigal Tongueは当日割引価格、著者のサイン入りで販売していたので購入しました! まだ読みかけですが、また興味深い内容を紹介したいと思います。待てない方はアメリカ版でよろしければ(!)アマゾンジャパンで購入できます。

ところでこの日、2018年度のアワード授賞式も行われました。通訳資格試験部門の最優秀賞(Best Performance on Interpreting Assessment)をいただき、大変光栄に思っております。これからもステップアップを目指してがんばります!

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