原作にはないインタビュー場面
一方、原作にはないインタビュー場面では、唯一昼時に時戸が直美の部屋を訪れている。両者の傍らには、やっぱり赤ワインが注がれたグラスが置いてある。インタビュー前、何となく視線を外に遣る時戸の表情。夜の場面には感じられなかった、はっきりとした生命力が感じられ、窓外の日差しを受ける岩田の表情もより生々しい。
インタビューは、澄みきった空気の中、ふたりの声が、まろやかに、艶めかしく、相手に伝わりながら、ゆるやかに行われていく。基本的に、インタビュアーである直美と取材対象者である時戸が切り替えされるシンプルなカット割りで、カメラは徐々に彼らをアップで捉え、切り返すようになる。ほとんどカメラ目線の時戸は、でも、視線をカメラのやや上、その先に向けている。彼は直美を見つめているのだろうか。いや、それにしてはすこし違和感がある。彼は、いったい何を見ているのだろうか?
カメラに正対する岩田を撮るには、どうしても昼でなければならなかった。天日にさらして、干してこそ、抽出されるひと粒の塩の輝きのように、日差しを浴びた彼は美しい。直美によるインタビューが、俳優・時戸森則の虚構の真実をあぶり出すように、不自然なほど正面を向く時戸は時戸である演技を超えて、今初めて、生身の岩田を浮き上がらせ、真実の姿を明るみにだそうとする。
それこそが、紛れもない、聡明な岩田剛典が垣間見えた奇跡的な瞬間なのかもしれなかった。事実、時戸があまり好きではないと言う夕暮れどきになると、直美は録音を止め、今度は彼女が逆に時戸を押し倒して、唇に唇を重ねようとする。リアルで、生々しく、美しいインタビュー場面は、こうして締めくくられる。
時空を超える岩田剛典の「奇跡」
本作のラスト、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEによる主題歌「空に住む Living in your sky」が流れる。まさか三代目JSBの楽曲が青山作品に鳴り響く日がくるなんて、夢にも思わなかった。車内で本を読む時戸の涼し気な表情にこの楽曲が重なり、今市隆二と登坂広臣のツインヴォーカルが画面に導く『空に住む』のタイトルをみて、その瞬間、「岩ちゃんが、時空を超えた」と思った。
制作ノートの文末で、青山監督は、次のように書いている。
「完成までこれまでで最も長い時間がかかりましたが、これを作ることでようやく私も一人の映画作家になれたかもしれない、という気がしています」
そう綴る、偉大な映画作家の遺作となった本作。青山監督の、この透き通るフレーズを噛み締めればこそ、『空に住む』が、どれだけかけがえのない「奇跡」を生み出した作品だったか分かるだろう。
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<文/加賀谷健> 加賀谷健 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」や「映画board」他寄稿中。日本大学映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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