Jさんはもともと、「一生に1冊でも自分が翻訳した絵本を出せたらいいな」と思って勉強を始めたそうです。ところが、プロの翻訳家の方々から「自分で見つけた絵本を翻訳して出版できるなんて、99.99%ないわよ」と言われたり、難しいという話を何度も聞かされたりするうちに、気づけば絵本ではなく、児童書の原書を探して企画を通そうとするようになっていました。

そんな自分に、違和感を覚えるようになります。絵本を出したくて翻訳の勉強を始めたはずが本末転倒になっていたと気づき、あらためて絵本に戻ってきたところだったのです。こんな経験があるからこそ、『翻訳家になるための7つのステップ』冒頭の「そもそも論~どうして翻訳家になりたいの?」が心に響いたと言ってくれました。

翻訳学校に通って自信を失ってしまったり、勉強を続けているうちに暗くなってしまったりする話が本書にも登場しますが、Jさんの身近にも、周囲と比べて「自分はダメだ」と暗くなっている方がいらっしゃるそうです。デビューをして作品が店頭に並ぶなど、とても喜ばしい状況にあるはずなのに……。

Jさんはとても明るい方なのですが、こういう明るさも大切だと思います。物事の受け取り方が楽観的だと、前に進みやすくなるからです。また、物怖じせずにいろいろなところにアプローチしていく積極性があるのも強みです。Jさんの場合、キャラクターを活かしてあちこちに顔を出してみることがデビューにつながりそうな気がします。「いつもいるよね」という感じになると、「じゃあ、ちょっと頼もうかな」と話が回ってくるものです。

Jさんはいくつかの出版社のことを教えてくれたのですが、その中でA社が気になっているように感じられました。自覚はしていないけれどそこから出したい気持ちがあるように見受けられたので、A社にアプローチすることをおすすめしました。

すでに完成されていた企画書と試訳に加え、読み聞かせの動画をつくることも提案しました。というのも、Jさんは読み聞かせの活動をされているので、せっかくの特技を活かして、印象に残るようにしたいと考えたからです。

Jさんは早速、実際に読み聞かせの動画を作成しました。でも、原書が通常の絵本よりも文字が多いため、15分とかなり長くなったのに加え、データも大きくなってしまいます。そこで、動画の代わりに日本語版のファイルを作成しました。スキャンした画像に試訳のテキストを重ねて、データを用意したのです。

拝見したファイルはきれいに仕上がっていて、翻訳絵本が完成されたときのイメージも湧いてきます。これで、持ち込みの用意も整いました。