信頼関係を作るために「ありのまま」ぶつかった。

バックグラウンドの異なる仲間との対話

日本が舞台となる本作で、小林さんはメインキャスト中ただ一人の日本人。「少なからず責任を感じた」と語る小林さんに、自分より経験豊富なメンバーとの撮影で心掛けたことを聞いてみた。

「カッコつけないことですね。もう、ありのままぶつかっていきました」

小林さんがウォッシュ監督とアリシアと初めて会った日に、クライマックスのシーンのリハーサルが行われたという。お互い初対面の上に、相手はオスカー女優。萎縮してしまいそうな状況だが、小林さんが取った行動は、「遠慮なく意見を伝える」ことだった。

「そうするとアリシアも遠慮なしに意見をどんどんぶつけてくれて。ああでもない、こうでもないと試行錯誤していくうちに、最終的にはほぼ別の、すごく血肉の通ったシーンが出来上がったんです」

ダンスと芝居。同じ表現の領域とはいえ、自分よりもずっと経験や実績のある人たちの中で、臆することなく自らの意見を伝えられたのはなぜなのか。小林さんは、「『自分の強みってなんだろう?』ということは、当然考えました」と静かに語り始めた。

「この作品に出演する上での僕の強みとは、僕自身も知らないうちに身につけた『日本人らしさ』だと考えました。自分の名前をきちんと名乗ったり、しっかり挨拶をしたり。そういう親からしつけとして学んだことって、元をたどると武士道や儒教にもつながってくると思うんです。これは誰も奪えないし、誰も真似できるものじゃない。ということは、自分らしくいるのが一番だなと。頑張って何者かになろうとするよりは、自分に素直になることで、それが逆に強みになると思えたんです」

会社員として働いていても、キャリアが長ければ長いほど、未経験の分野にチャレンジするときには、つい見栄を張ってしまいがちなもの。しかし小林さんが選んだのは、ありのままの自分で勝負するという、それとは真逆のアプローチだった。

自分に自信を持つために“休む”。

大事なのは「自分を大切にする時間」

“ありのまま”に振る舞うことは、簡単そうに聞こえてなかなか難しい。まだ経験の少ない若い世代は特に、「自分には強みや個性があるのだろうか?」と悩んでしまう人も多いはず。そう話すと、小林さんは自らの意外な一面について明かしてくれた。

「僕はずっと、コンプレックスばかりだったんです。自分には武器がないんじゃないかと思っていました。でもその一方で、ここまで一生懸命生きてきたんだから、そんなはずはないと思う自分もいました」

誰もが知るEXILEに加入して10年。近年のツアーでは100万人を動員するようになり、人気絶頂の三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのリーダーも務める。これ以上の望むべきキャリアがあるのだろうかと思ってしまうが、本人はいたって冷静に自分の立ち位置を見つめていた。

では、将来のために何か新しいことを始めるべきなのか。立ち止まって考えた時に、小林さんは「自分の好きなこと、嫌いなことが分からなかった」という。自らの心の声に耳を傾ける必要性を感じた小林さんが始めたのは「自分の時間をつくる」ことだった。

「自分と向き合うのって、僕は人より苦手だなと思っていて。なので、努力して“休む”時間をつくりました。そうするとだんだん心のバランスが取れてきて、『自分ってこういう人間なんだ』ということが自然と分かってきました」

ただでさえ多忙なスケジュールの中、休むことは簡単ではなかったはず。

「もちろんそうです。グループの仕事は大好きですし。でも、もっと自分を大切にしないと、その大切なメンバーと一緒にいられなくなってしまうと思ったんです。だから、すごく頑張って時間をつくりましたね。連絡も遮断して。とにかく踏ん張って休みました」

自分には武器がない。そう思って落ち込む前に、まずは自分の内側にしっかり目を向けてみる。自分がもともと持っているはずのものを丁寧に見つけていくことが、自分に自信を持つために大切なことだと、小林さんは気付いた。ハリウッドデビューの切符も、本作の出演で手にした自信も、妥協することなく自分に向き合った結果、得られたものだ。

インタビューの終盤、小林さんはこちらをまっすぐに見つめ、「皆さん、自分を大切にする時間をちゃんとつくった方がいいと思います」とアドバイスをくれた。

「この年齢になってようやくですけど、何かを突き詰める時間や、何かを頑張る時間と同じくらい、自分を大切にして休む時間が必要だと感じるようになりました。この3つのバランスが同じぐらいじゃないと、どこか心って疲れちゃうし、萎れてしまう。

僕はずっと、個人では誰からも求められてないと思っていたんです。組織の中で自分が存在する意義みたいなものって、誰もが一度は悩むじゃないですか。そのときに、意識的に休む。肩の力を抜く。僕の場合はそうすることで、自分を大切に思えるようになりました」

人気や肩書きに惑わされることなく、自らを客観的に見つめ、向き合ってきた小林さん。大人の魅力と貪欲なパワーを放つ瞳に、自分の表現を追求するプロフェッショナルの決意が見えた。

 

作品情報

Netflix映画『アースクエイクバード』11月15日(金)より独占配信開始
1980年代の東京で、日本人写真家と恋に落ちた外国人女性。だが、やがて彼女は三角関係に心乱され、行方不明だった友人殺しの容疑までかけられる。
出演:アリシア・ヴィキャンデル、 ライリー・キーオ、 小林直己

 

提供・働く女のワーク&ライフマガジン『Woman type』(長く仕事を続けたい女性に役立つ、キャリア・働き方・生き方の知恵を発信中)

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