Y社とのお話がとんとん拍子に進んでいたAさんですが、追加情報を送って以降、ご連絡がなくなってしまいました。そこで問い合わせのメールを送ったところ、「現在の出版不況下では翻訳企画はハードルが高い」というお断りのお返事があったのです。「出版助成金や買取などがあれば話は別だが」とのこと。

Y社のほうも乗り気に見えていただけに、Aさんはがっかりしてしまいます。だけどちょうどこの頃、助成金申請に関する情報がAさんのところに入っていました。「Y社のほうから助成金の話を持ち出したのだから、申請するので協力してほしいと打診してみては?」とAさんに提案しました。助成金が取得できた場合はY社から出版することを申請書類に記載しようと考えたのです。

そこまで食い下がる翻訳家はあまりいないでしょうから、まずそこで頭ひとつ抜けます。もしY社から出版できない事態になったとしても、助成金を取得できていれば、他の出版社に持ち込んでも通りやすくなるでしょう。

実は、私も以前に助成金申請を検討したことがあります。手続きが面倒で結局見送ってしまいましたが、面倒なことには挑戦する方も少ないので、考えようによってはチャンスなのかもしれません。

AさんがY社に打診すると、協力を約束してくれました。Aさんも申請に必要な書類を揃えるため、昔の知人に連絡を取るなど、忙しく動き出しました。いい流れに乗ったように見えたのですが、申請にあたっては出版が正式に決定していなくてはならないとわかり、残念ながら申請は見送ることになりました。

けれどもこうして動き出したことで、一つひとつの行動が思わぬところでまた良い結果を運んできてくれると思います。塞翁が馬ではないですが、Y社とのお話も、うまくいくかと思ったら「助成金があれば別だが」と断られ、そんな折に助成金情報が入り、それで打診したら協力を得られ……という具合に、一見マイナスなことから次の展開が得られることもあるんですよね。一歩引いて自分を客観視しながら面白がる余裕を持つと、一喜一憂せずにすむと思うのです。

Aさんには続いてX社を提案したところ、絵本が中心のラインナップのため、今回の企画とそぐわないのではという不安をお持ちでした。たしかに、ラインナップを見て、合うところに持ち込むのが基本です。ただ、私が以前にX社の社長さん宛てに企画書を送ったことがあり、その際にきちんと対応していただいたことが印象に残っていたのです。社長さん自らがそのような対応をしている会社であれば、可能性があると考えました。

翻訳家からの持ち込みに対してお返事がない出版社も多いですが、たいていの翻訳家は、その出版社の作品の愛読者なんですよね。素敵な会社だと思っていたのに対応がひどいとがっかりしますし、出版社からしても、ファンを失う、もったいないことだと思うのです。逆に対応がきちんとしていると、たとえお断りのお返事であってもさらに好感を持ちますし、ていねいな会社として印象に残るので、出版社にとってもプラスに働くのではないでしょうか。