秘密主義に隠された“愛の美学”
グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)
ダンブルドアは、グリンデルバルドへの恋(愛ではなく)を、「若気の至り」として非常に後悔している。その代償はあまりに大きい。ダンブルドアのもうひとつの秘密、それは家族に関係している。
名門だったダンブルドア家だったが、父パーシバルがアズカバンの監獄で獄死したスキャンダルから逃げるため、母ケンドラが、アルバス、アバーフォース、アリアナの兄弟を連れて、ゴドリックの谷に身を隠す。隣人に家族のことを話すのを禁じられた少年期からダンブルドアは、秘密主義者になるのだ。
彼が、ホグワーツで優秀な成績をおさめていた頃、魔法の力を制御できなくなった妹アリアナの面倒を見ることになる。若き才能が本来の力を発揮できず、不満がたまる日々を過ごしていたところ、大伯母バチルダ・バグショット(著名な魔法史家)を頼ってゴドリックの谷にやって来たのがグリンデルバルドだった。一瞬で恋してしまうダンブルドアは、自分たちの強力な魔法を使って新世界を作るため、谷を出て行こうとする。
ところが弟アバーフォースがそれに反対。口論の末、杖を抜いた彼とダンブルドア、グリンデルバルドの3人は決闘になり、止めに入ったアリアナが死の呪文を受けてしまう。グリンデルバルドはその場を去ったが、残されたダンブルドアは愛する妹を失った悲しみを感じながら、同時に激しい恋の相手だったグリンデルバルドの闇の力を前に恐怖と絶望を味わう。グリンデルバルドへの気持ちが愛ではなく、一時的な恋の病でしかなかったことを、ほんとうに大切な愛する人を失って初めて気がついたという皮肉な現実。
大切な者を犠牲にした愛以上に深いものはない。ダンブルドアは、この過酷な現実に打ちひしがれながら、真の愛を心に刻んだ。簡単に誰かと共有することはできない究極の愛の形。こうして隠された“愛の美学”が、ダンブルドアの秘密主義の核心にはある。
「みぞの鏡」に映る真実
老年になっても後悔が癒えることはなかった。不死身のヴォルデモートを倒す鍵になる分霊箱(殺人によって引き割かれた魂を納めたもの)探索が始まる『謎のプリンス』で、ダンブルドアの右手が黒く焦げていた原因がここにある。
分霊箱のひとつであるマールヴォロ・ゴーントの指輪を破壊しようとしたとき、蘇りの石(「死の秘宝」のひとつで、死者を蘇らせる力がある)がはめ込まれていることに気がつく。アリアナのことを想い続け、魔が差したのだろう、ダンブルドアは咄嗟に指にはめてしまう。強力な魔力が込められた指輪の呪いにかかって、あんな手になってしまったというわけだ。
後先考えないくらい、妹への愛が続いていることが、他にも老年のダンブルドアに見られる場面がある。これもやっぱり映画では描かれないのだけれど、『賢者の石』原作では、夜な夜な寮を抜け出して「みぞの鏡」(心の奥に隠された願望が映る鏡)の虜になったハリーに、何が見えるかと逆に問われ、こう答えるのだ。
「ステキな靴下を持っている自分が見える」
ダンブルドアらしいユーモアのある回答だけれど、ハリーは、ダンブルドアが嘘をついていると分かっていた。ほんとうは失った家族が全員揃う団らんの風景だった。『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)で中年のダンブルドアが見るのは、グリンデルバルドの姿だった。このときはまだ家族への愛よりも、グリンデルバルドとの恋にけじめがつけられない未練があった。これだけ偉大な魔法使いでさえ、簡単には恋と愛の決定的な違いを理解することは難しかったのだろう。