安達と黒沢の関係性が尊い理由
一方で「あいつのこと知りたい」と思っても、その先を知るのがつい怖くなってしまう安達の姿も、ドラマ前半では印象的だった。できるだけ黒沢に接触しないように、避けようとするのが、黒沢の気持ちを察すればこそ、切なくて仕方なかった。
相手のことを「知りたい」と思うのは、相手のほんとうの気持ち(答え)が分からないからだ。分からないから、必死で想像力を働かせて、いろいろ考える。でも、安達の場合、相手に触れたら、すぐに答えが分かってしまう。分かるか、分からないか、あるいは、分かったと思っても、次の瞬間にはやっぱり分かってなかったと、行きつ戻りつ、振り出しに戻りながら、それでも進んでいく。安達と黒沢の関係性が尊い理由は、そうして微笑ましくも、長いコミュニケーションの行程を歩んできたからこそ滲むかけがえのなさゆえだ。
そんなふうにして、温められてきた安達と黒沢の結びつきは、映画化ともなると今度は、どんな強力で、魔法的な瞬間の数々を見せてくれるのだろう?
癒しを供給し続ける『チェリまほ THE MOVIE』
「おとぎ話はいつだって、魔法が解けてハッピーエンドだ」
そう言う安達のナレーションから始まる『チェリまほ THE MOVIE』では、どうやら安達は、引き続き魔法が使えるらしいのだ。なんでだろうと思って考えてみると、やっぱり気になってくるのは、“キスをするか、しないか問題”だろうか。
ドラマ版の最終回、エレベーターの中でキスしようとする安達と黒沢を捉えた画面は、ドアーが閉まる寸前でカットされ最後までは映されなかった。「こんなお預け状態、ツラすぎるじゃないか!」と素直に思ったけれど、キスするふたりが画面上で描かれるか、描かれないかなんて、大した問題にはならない。むしろ大切なのは、心ある言葉と相手へ敬意を込めた態度と行動である。
付き合って初めてのクリスマスの夜を過ごし、新年の初詣で、黒沢が一年間の計画を楽しそうに話す矢先、安達の長崎転勤が決まる。安達と黒沢の間に訪れる試練、それは、物理的な距離だ。でも、安心してほしい。絶対的な結びつき(それがどれだけ魔法的か!)のあるふたりの間には、ライバルが入り込む余地なんてどこにも見当たらないし、四六時中ベタベタしていなくたって、ふたりの愛が、本物だということはすでに証明されている。
葛藤を乗り越える度に強化されてきたふたりの関係性は、常に揺るぎない安心感に支えられているからこそ、観客(視聴者)へ向けて癒しを供給し続ける。