生まれたばかりの猫には歯が生えていませんが、猫にも人間と同じように乳歯が生え、やがて永久歯へと生え変わっていきます。歯磨きをしないと歯周病等の病気にもなってしまいます。
本記事では愛猫の口まわりのトラブルを未然に防いでいただくためにも、猫の歯の構造、乳歯から永久歯への生え変わりについて、歯磨きが必要な理由、歯磨きを嫌がる愛猫への対処法などについて詳しく紹介します。
1.猫の歯の種類
猫の歯は、3種類の歯「犬歯(けんし)」「門歯(もんし)」「臼歯(きゅうし)」から成っています。
まずは、それぞれの構造と役割から紹介しましょう。
犬歯(けんし)
犬歯は、上下に4本生えている、一番目立つ歯のこと。その名からもイメージできるように大きく尖っています。野生猫の場合、この犬歯を獲物の首筋に“くさび”のように差し込むことで、脊髄を切断し仕留めます。その他、肉を引き裂くときなどにも活躍する歯です。
門歯(もんし)
門歯は正面に上下合わせて12本並んだ、小ぶりな歯のこと。人では「切歯(せっし)」と呼ばれます。門歯は間隔をあけることなく並んでおり、上の歯が下の歯に被る形で咬合するようになっています。主に肉を引きちぎったり、肉を骨からそいだりするのに使われてきました。
臼歯(きゅうし)
臼歯は上下合わせて14本ある奥歯のこと。10本の「前臼歯」と4本の「後臼歯」から成ります。肉を引き裂くことを目的とした歯で、ハサミのような構造で肉を切断します。家庭で猫草を食べてるときなどにも活躍している歯です。
「犬歯」「門歯」「臼歯」合わせて30本の永久歯が生え揃うことになります。
2. 猫の歯が生え変わるタイミング
それでは「犬歯」「門歯」「臼歯」合わせた計30本の歯は、生まれてからいつ頃までに生え揃うのでしょうか。
乳歯の生え変わりはいつから始まる?
授乳期が終わる生後2週間ごろに、乳歯が生え始めます。
生え始める順は、門歯→犬歯→前臼歯です。
生後3週間から6週間ほどで、26本すべての乳歯が生えそろいます。
永久歯へ生え変わる時期の注意点
永久歯は乳歯が生えたあとに、歯茎の中で形成される仕組みです。
そして生後3ヶ月から6ヶ月にかけて、頭蓋骨の成長と共に、乳歯を押し出すような形で出てきます。
ここで気をつけたいのが歯の破損や脱臼。
支える力の弱い乳歯や生え変わったばかりの永久歯は、固いものを噛んだりひっかけたりした拍子に破損や脱臼を起こしてしまう可能性があります。
そのような可能性のあるモノが口に入らないよう気をつけたいところではありますが、気をつけていても起きてしまうこともあります。もし歯が欠けたり抜けたりしてしまった場合にはそのまま放置せず、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
乳歯が折れてしまった場合、残った乳歯が永久歯が正常に生えてくるのを妨げてしまう原因にもなります。永久歯が折れてしまった場合にも、歯の状態によって抜歯や保存修復などの処置が必要になります。
放置をつづけたことで歯髄に痛みが生じてしまうこともあるので、生え変わりの時期は注意してください。
もう一点、気をつけたいのが「残存乳歯(ざんぞんにゅうし)」です。
乳歯から永久歯に生え変わる際、抜け落ちていない乳歯と生え始めの永久歯が共存することがあります。通常であれば、そのまま乳歯は抜け落ちるのですが、生え変わりの時期を過ぎても抜けない「残存乳歯」が起きることがあります。
この「残存乳歯」は、実は犬では比較的多く見られるのですが、猫で見られることは極めて稀です。
こちらを放置すると、上顎と下顎の嚙み合わせがズレてしまう「咬合異常(こうごういじょう)」が起きたり、ごはんが食べづらくなったりします。また隣り合う歯と歯の間が極端に狭くなることから汚れが溜まりやすくなり、歯肉炎、歯周病を引き起こしてしまうことも。心配な場合には早めに動物病院を受診してください。
猫の抜歯は全身麻酔下で行うことが推奨されているため、去勢手術や不妊手術を併せて抜歯をおこなうという判断になることも。受診する病院で相談してみましょう。
3.歯が生え変わる時期のサイン
「愛猫の歯がそろそろ生え変わるのかも」ということを感じ取れるサインがあります。歯が生え変わる時期のサインとして、代表的なものを紹介します。
サイン① 人やおもちゃに噛みつく
歯が生え変わる時期は、歯茎がムズムズとかゆくなるといわれます。
そのため、おもちゃや家具、飼い主さんに噛みついてしまうことがあります。
口の中の違和感や不快感を軽減させてあげるためには、口内を傷つけないような柔らかな素材のおもちゃを与えるのが良いでしょう。
サイン② 口臭が強くなる
また、口臭が強くなるケースもあります。
乳歯と永久歯が共存している時期は、歯と歯の間に食べ物が挟まりやすいためです。
ただこちらは歯が生え変わる際の一時的な症状なのでご心配なく。永久歯に生え変わると口臭も落ち着くので、無理に挟まった食材や汚れを取るなどはしなくて大丈夫です。
4.猫も歯磨きは定期的にする必要がある?
まず、猫は虫歯になりません。猫の口内には虫歯を起こす細菌がいないのです。
ただし、「虫歯にならないなら、歯磨きをしなくていいのか。楽チン!」というわけではありません。何故なら猫の口に歯周病菌はいて、この歯周病にかかる家猫は少なくないからです。
歯周病は猫で最も治療が難しい疾患のひとつです。この歯周病を予防するために、定期的なデンタルケアは強くおすすめします。
歯周病の原因
硬い肉などを嚙み切って食べている野生猫とは違い、家猫はキャットフードなどのやわらかい食事をしていることがほとんどです。
その場合、食事を通して歯の表面の汚れを落とすことが難しいので、人間のように歯の表面に汚れがついたり、歯と歯の間に食べカスが残ったりしやすいといいます。
歯の汚れや食べカスを放置していると、1週間ほどで歯垢が固まり歯石になってしまいます。この歯石が歯周病を引き起こす原因となるので注意が必要です。
歯肉が赤くなったり腫れたりする歯肉炎からはじまり、症状が進行し歯周病になると痛みによる食欲不振、顔の腫れ、強い口臭や鼻水、歯ぐきから出血し歯が抜けるなどの異常を引き起こします。さらには、腎臓疾患など、命にかかわる病気に発展することもある、猫にとってとても怖い病気です。
歯周病を防ぐためには、猫も人間と同じように歯磨きをして、食べカスや歯垢を定期的に除去するのが有効です。歯磨きで歯石を取ることは、病気の発症を遅らせるのにも役立ちます。
高齢になると猫も歯が抜けるの?
歯周病の進行によっては、歯茎が下がったり、歯の根元がゆるくなって急に歯が抜けたりします。高齢になると、より多く見られる症状といえます。
中年期といわれる7〜8歳以降、特に10歳以降は、こまめに動物病院で歯の様子を見てもらうなど気にかけるようにしてください。