山口紗弥加が主演する、新たな年の差ラブストーリー『シジュウカラ』(テレビ東京系)が、3月25日に最終回を迎えました。坂井恵理の原作漫画とともに、「映画のようなクオリティの30分」など話題となったドラマを、夫婦関係・不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。

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「家は闇、家に幸せなんかない」と母親

 ドラマ『シジュウカラ』全12話が終了した。登場人物それぞれの物語や背景が浮かび上がり、落ち着くところに落ち着いた。

 胸が痛くなりつつも共感したのは、千秋(板垣李光人)の母・冬子(酒井若菜)の物語。子どものころからモテた冬子はかわいさに磨きをかけ、16で「手のきれいな男」と出会って19で千秋を産んだ。手のきれいな男は、その手で冬子を殴るようになった。彼女は千秋とふたり生きていくために、かわいい自分を武器にするしかなかったのだろう。

 滞納していた家賃を千秋が工面してくれたのに、どうやら冬子はそのお金まで使ってしまったようだ。家の外の階段に座り込んで、たばこをふかす冬子。荷物をもった千秋がやってきて、隣に座り、冬子のポケットからたばこを取り出して吸う。そのとき、家賃が入っていた封筒が見える。お金は少しだけ残っているようだ。

「この階段、ヤバくない?」  冬子がぽつりと言う。千秋も少し笑う。 「ヤバいよ」  階段を降りたら下界、たくさんの敵がいそうだ。だが階段の上(家があるところ)も極楽ではない。留まるも地獄、降りるも地獄か。ただ、下界は広い。

たとえ闇から抜け出せないとしても

 たばこを消した千秋は「消えるわ」と告げる。そしてしっかりした足取りで階段を降りていく。 「殺されるんじゃないよ」  旅立つ息子にかける言葉はそれだけだ。そこに冬子のこれまでの人生が透けて見える。振り向かないまま、左手をひらりと挙げた息子の後ろ姿を見て、冬子は少しだけ微笑む。

 時を経て、家から出ていく冬子の姿が映るが心なしか玄関周りが片付いている。地面に落ちていたじょうろを拾ってきちんと棚に置く冬子。「ちゃんと生活している」のがわかる。 「家は闇、家に幸せなんかない」  その冬子の思いは変わらないだろう。闇から抜け出せないとしても、ときに光を見ることができる生活へと冬子は歩み出したのかもしれない。

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