度を超えた人間離れした演技

 岡田将生の「吸血鬼伝説」とは、まぁ軽い(いや、ほんとうにあの場面は寒気がした!)冗談だとしても、あの演技は、演技としてちょっと度を超えていると思った。

 前にこれと同じような感覚になったことが一度だけある。それは、今回のアカデミー賞ノミネートと同じくらい話題になった、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督作『万引き家族』(2018年)の時だ。浜辺に座り、海の方へじっと視線を遣る樹木希林の演技が凄まじい迫力だった。

 あの場面の樹木もまた度を越えた演技をしていた。その数か月後に亡くなる樹木が、多分、現実に死がすぐそこまで迫っていたことを感知した一世一代の悟りの境地だったはずだ。

 つまり、死を意識した演技であるということ。吸血鬼は、生ける死者である。高槻役の妖艶さが衝撃的だったのも、実はどこかで死を意識していたからかもしれない。とにかくひとりの俳優がそういう境地に入って、人間離れすることが、どうやらあるらしいことを、高槻役の岡田から感じられた。

 音から聞いた話だと言って悠介に聞かせる恐ろしく不気味な物語を語り終えた後、高槻の目は、涙をいっぱいに湛えて潤む。涙がこぼれそうになって顔をそむけ、正気に戻ったように前方を向く横顔が、とにかく美しい。人間離れした演技をやってのけた岡田が見せる、この美しい横顔を見るだけでも本作を観る価値は十分にある。

“再出発”になる高槻役を超えて

岡田将生、“ぱっとしない印象”から世界へ躍進。アカデミー賞ノミネート作で見せた怪演

(画像=『女子SPA!』より引用)
高槻は、大手の芸能事務所を退所して、フリーになった。フリーになるということは、仕事は自分で取ってこなくてはいけない。悠介の演出から多くを学びながら、自分を見つめ直し、苦悶し、自問を重ねる高槻の姿は、どこか岡田自身の等身大の姿を映し出しているかのようだ。言わば、彼の“再出発”を象徴する役柄として読み解けるだろう。

 演技に目覚めた彼(高槻)が現状に満足することなく、さらなる高みを目指そうとする強い意志。新しい役を演じる毎にその都度、腰を据えて臆することなく改めて演技と向き合おうとする彼(岡田)のひた向きさ。

 いったい、岡田が演じる役柄としての高槻なのか、それとも高槻が岡田自身なのか、虚実がまぜこぜになってよく分からなくなる。けれど、そうした難役だったからこそ、高槻役は、八雲以来待ち望んだ非常に生々しく、エモーショナルな新たなはまり役となったのだ。

 アカデミー賞助演男優賞にノミネートされていないのだから、当然受賞は夢のまた夢の話だろう。それでも岡田の受賞を願ってしまう筆者は、ひとり、岡田がこの先、今度は高槻役を超えて俳優として世界へ向けて“再出発”していく日も、そう遠くはなさそうだ、なんて思ったみたりする。

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

<文/加賀谷健>

加賀谷健 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」や「映画board」他寄稿中。日本大学映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

提供・女子SPA!



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