タワマンを舞台に、6人の妻たちが不倫に走るドラマ……そう聞いたら見ないわけにはいかないNetflixシリーズ『金魚妻』だが、「ちょっとエッチな気分に浸(ひた)りたい」という動機以外で見ると、不満が残りそうなドラマだった。

篠原涼子主演『金魚妻』は葛藤のない不倫ドラマ。見終えてモヤモヤが残る理由
(画像=『女子SPA!』より引用)

8話を貫くのは、さくら(篠原涼子)と春斗(岩田剛典)の不倫関係。さくらは夫・卓弥(安藤政信)とともに美容院を経営しているが、ある事故ではさみを握れなくなり、今は経営者として夫をバックアップする立場。だが夫のDVは日に日に激しくなる一方で、そんなとき金魚店を経営する春斗と出会う。そして彼女はついに家を出て、春斗の店舗兼自宅に転がり込んで、金魚の世話をするようになる。

このふたりの関係を軸に、タワマンに住む女性たちの不倫話を入れ込んでいる。

卓弥と関係をもっているのは、同じタワマンに住むゆり葉(長谷川京子)やサロンに勤める女性たち。さくらは、夫の不倫に気づいてはいるが、力関係もあってなにも言えない。

なぜDV夫にひょう変?

それにしても、なぜ優しかった卓弥が、はさみを握れなくなったさくらに「それでもいい。一緒にがんばろう」とまで言った卓弥が、カリスマ美容師に成り上がったからといってあれほどのDV夫になってしまったのか。そこが今ひとつはっきりしない。

さらに、美容院のスタッフたちはさくらを慕っているということが、何度か語られるのだが、だったらさくらが家を出たとき、なぜ誰も探そうとしなかったのか。心配しているそぶりを見せているスタッフはいただろうか。

不倫に至る経緯がよくわからず「人物」が薄い

金魚はたくましいとか、金魚の飼い方などを人生なぞらえているのだが、それがどうにも薄っぺらく感じてしまう。かつて、主婦が籠(かご)の鳥になぞらえられていた時代があったが、それを金魚に変換しただけではないのか。今の時代に、こうした比喩は成功したのだろうか。

篠原涼子主演『金魚妻』は葛藤のない不倫ドラマ。見終えてモヤモヤが残る理由
(画像=『女子SPA!』より引用)

写真はイメージです(以下同じ)

他の5人の女性たちの“不倫”も、それぞれやむにやまれず走ったものとも思えず、不倫に至る経緯がよくわからないものばかり。

人はみな、過去を背負って生きている。だが登場人物たちの素性はほとんどわからない。どういう育ち方をして、どういう背景があって今、なぜここにいるのか。それがよくわかるのは春斗だけだ。だから彼には「生きている」実感がある。

ところがさくらや卓弥、そしてゆり葉にはそれがない。主役級にないのだから、その他の妻たちはもっと過去がわからない。そしてみな、唐突に不倫に落ちてしまうのだ。

いやいや、そう簡単に不倫に落ちる人ばかりじゃないよと言いたくなる。ギリギリまで踏みとどまったり、結局、不倫の道へは進まずに引き返したりと現実は複雑なはず。あんなに簡単に、背景も見えずに不倫に落ちる人間ばかり出てきたら、「人物」が薄く感じられるのはやむを得ない。

【※本記事ではドラマのストーリー展開に触れています。これから楽しまれる予定の方はご注意ください】