犬を飼ったことがある人なら一度は悩まされたことがあるであろう、犬の“噛みつき”問題。 子犬の頃の甘噛みは痛くないしむしろ可愛いのですが、そこで人を噛むことを許容してしまうと、成犬になってからが怖いし、どうしつけたら…?

本記事ではJAHA認定家庭犬しつけインストラクター・西川文二先生の監修のもと、犬が噛む理由、噛み癖を直す方法や注意点を紹介します。

1.犬が人を噛む理由と対処法

犬が噛む理由とは?噛み癖を直す方法や注意点をご紹介
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

犬が人を噛むのにはさまざまな理由があります。ケースごとに理由、対策を解説します。

ケース1.子犬の甘噛み

犬は離乳が始まる3週齢ごろから、歯が抜けて大人の歯が生え揃う7~8ヶ月齢までは、いろいろなモノを噛む遺伝的なプログラム「噛みつき欲求」が組み込まれています。噛むことは、口にできるモノとそうでないモノを確認するだけでなく、あごの筋肉を鍛えたり、刺激により脳を鍛えたり、歯の抜け代わりを促進したりと、多くの大事な役割を果たしているのです。
この「噛みつき欲求」が強い時期は常に噛むモノを探している状態と言えます。そのときに噛むモノがないと、人間の手足を噛むという行為が起こりがちです。

つまり甘噛みをやめさせたいなら、この「噛みつき欲求」を充分に満たしてあげるおもちゃを用意するのが効果的です。この「噛みつき欲求」には「動くものを追いかけ噛み付く」「かじり倒す」といった、2種類の欲求があります。

「動くものを追いかけ噛み付く」欲求を満たすには、ぬいぐるみやロープ系おもちゃなど、追いかけて噛め、噛んで振り回せる興奮系のおもちゃを。「かじり倒す」欲求を満たすためには、コングをはじめとするゴム系のおもちゃや牛皮、アキレスなどの長時間噛めるものを。それぞれ用意しましょう。

例えば、飼い主さんの手を噛むのは「動くものを追いかけ噛み付く」要求の現れなので、そこに長時間噛めるおもちゃを与えても、問題は解決しない場合があります。

おいしい味がしたり、噛みつきたくなるような動きをしたり、愛犬が飼い主の手足を噛むよりもそのおもちゃが魅力的だと感じるように工夫し、噛ませたいモノに誘導するようにしてください。

犬は体験を学習する動物です。「噛みつき欲求」の強い時期に噛むことが許されていたものは、成犬になっても噛もうとします。対して、その時期に噛んでいないものについては、どんどんと興味が薄まり噛もうとしなくなります。つまり、この時期に、将来噛ませたくないものは噛ませない、かつ、将来も噛む習慣を残したいものは積極的に噛ませることがとても重要になります。

噛ませたくない物は「しまう」「行かせない」「カバーをする」「嫌がる味の液体を塗布する」といった、4つのいずれかを徹底するとよいでしょう。

噛ませたくないスリッパなどは収納し、ソファの脚などには、犬の嫌がる味がする噛みつき防止スプレーを吹き付けておくなどの工夫で、愛犬が噛むのを抑制することができます。

ケース2.成犬が噛む理由

いつもは温厚な愛犬が突然人を噛んでしまった!そんなときに飼い主がしてはいけないのは、怒りの感情を露わにし怒鳴ったり叩いたりすること。
特に叩くなどすると、身を守るために噛む行為がエスカレートしてしまう可能性もあります。何故噛んでしまったのか?理由を考えることが大切です。

【考えられるケース】

  • 恐怖
  • ストレス
  • 病気やケガ

など

例えば、見知らぬ子どもに突然触られる、寝ているところ急に触れられる、まだ信頼関係ができていないうちに「歯磨きをしよう」と鼻の上を掴まれる…。そんな時に犬はビックリし、同時に恐怖を感じたりして、防衛・攻撃本能で噛んでしまうかもしれません。犬は人のように嫌なものを手で払うことができないため、「やめて!」というアクションをしたい場合に手(足)ではなく口を使います。これが人間からすると「噛まれた」ということになるのです。

また人間でも過度にストレスが溜まると攻撃的になってしまうことがあると思いますが、犬も同じです。孤独を感じたり、散歩に行けず運動量が少なかったりするとストレスを感じ、発散に噛む行動に走ってしまうことがあります。日ごろから様子を観察し、発散させてあげることが大切です。

最後に、触った途端にいつもは大人しい愛犬が噛んできたり、様子がおかしかったりした場合には、病気やケガで痛みを感じ、反射的に噛んできている可能性もあります。そのような場合は病院に行き、獣医師に相談することが必要です。

犬が噛むという行為には、飼い主さんや周囲に原因があるケースも少なくないので、噛んだ=犬が悪いとするのではなく、冷静に理由を分析し、落ち着いて対処するようにしましょう。

2.そもそも“噛みつき”を学ばせないことが大切

犬が噛む理由とは?噛み癖を直す方法や注意点をご紹介
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

犬が噛む力は想像以上に強く、その犬歯は「武器」とも言えるでしょう。ほとんどの犬は、その「武器」の使い方を知らないまま一生を終えますが、恐怖やストレス、嫌なことに遭遇し、そこから逃れたい!と犬が強く思ったときに、その武器の使い方を知ってしまうことがあります。

無理やりに鼻の上を掴まれた、嫌がるのに仰向けにされそうになった、くわえているものを急に取り上げられそうになった……。そんな場合に抵抗して噛みついたら、飼い主がそのイヤな行為をやめてくれた。その成功体験の積み重ねで犬はどんどん噛むことが得意になってしまうので、そのきっかけを与えないことが一番重要です。

また、こわがりな犬ほど噛みつきを学びやすいので注意が必要です。飼い主の行動に不安を覚えやすく、噛みつくきっかけを得やすいからです。

力で向かおうとすれば、犬も力で対抗しようとする。このことを頭に置いて、犬に「噛みつけば、それ以上、飼い主は嫌なことができない」ということを犬に学習させないために、そもそも犬が嫌がることを無理やりしない、嫌なことを起こさないということを意識しましょう。
「しつけ」を叱ること、と捉えている飼い主さんもいるようですが、そもそも叱る必要は全くありません。叱られることで犬にはフラストレーションが生じ、フラストレーションは問題行動の要因になります。叱ることが本気ガミを誘発することもあるので、何かが起きてから叱るのではなく、それが起きないように事前に対応することが大切です。

トレーナー選びは慎重に

学習の結果、犬が飼い主を本気で噛むクセがついてしまったら、行動治療の専門医もしくは、専門医が推奨するインストラクターおよびトレーナーの力を早めに借りるようにしてください。
プロのトレーナーといっても、昔ながらの方法(科学的に間違っている方法)を用いている人もまだまだ多くいて、むしろ事態が悪化してしまうことも往々にしてあります。

そのような二次トラブルを防ぐためにも、行動治療の専門医や、科学的知見に富み「体罰」を使用しないトレーニングを実施している家庭犬のトレーナーに相談することをおすすめします。