佐野勇斗との「バディ感」も見所
今回の映画版でもうひとつ重要な要素として打ち出されているのは、佐野勇斗演じる青年・梶との「バディ感」だろう。彼は原作でももう1人の主人公と言える存在で、初めこそ借金まみれでダメダメ、優しすぎて勝負事にも向かない存在として描かれるのだが、次第に斑目貘にとっての頼れる相棒へとなっていく。
さらに、横浜流星が親しみやすさだけでなく「カリスマ性」をも持ち合わせていることも重要だ。観客は佐野勇斗に自信を重ね合わせることで、その相棒になっていく嬉しさと、「彼についていきたい」という切実な想いもシンクロするようになっている。もちろん、それは佐野勇斗が「(ちょっとダメだけど)どこにでもいる普通の青年」を好演しているおかげでもある。
前述したような、どん底を経験した主人公でありながらも、「この人について行けば新たな世界が見られる」という、青年・梶に芽生えていく「ワクワク感」もまた、横浜流星という俳優の魅力があってこその説得力を持たせていたと思うのだ。
その他にも豪華キャストが揃っており、特に本郷奏多が仕事を遂行しアクションもこなす若い立会人になっていたり、村上弘明が戦闘力の高い「イケおじ」に扮しているのもたまらない。白石麻衣、森崎ウィン、櫻井海音、木村了、鶴見辰吾、三浦翔平などにも、横浜流星や他キャストとの掛け合いでどのような化学反応を起こすのか、注目してほしい。
頑なに譲らなかった原作へのリスペクト
ジャパンプレミアでの舞台挨拶で、横浜流星が「頑なに譲らなかった」と告白したことがある。それは、「ハーモニカを吹くシーン」が当初の撮影の予定にあったのだが、「斑目貘の持ち物は『カリカリ梅』だけ」「絶対吹きません」と、横浜流星は断固として反対したのだという。それは「カリカリ梅は原作をリスペクトするうえでいちばん大事。ここにハーモニカが入ってくるとカリカリ梅の強さがなくなってしまう」ことが理由だったそうだ。
「カリカリ梅」は主人公の好物というだけでなく、劇中でもとある重要なシーンで登場する、「親しみやすさの裏に隠された智略」を示す重要なアイテムだ。原作でも印象的だったそのカリカリ梅のシーンのために、余計とも言えるオリジナル要素を、断固として反対した横浜流星の判断も賞賛に値する。
製作者の意向に反対するということは、現場で「面倒な俳優」として敬遠される理由にもなりかねないが、横浜流星はそのリスクを顧みずに、原作の要素を大切にしたのだから。また、彼はウィッグを使わず、実際に髪を銀髪に染めたという。そのような「本気」が役に挑む姿勢から伝わることも、また嬉しいのだ。