2022年2月11日より映画『嘘喰い』が全国公開されている。結論から言えば、本作は「横浜流星のためにスクリーンで見届ける」価値が間違いなくある。
©迫稔雄/集英社 ©2022 映画「嘘喰い」製作委員会(以下、同じ)
原作コミックとは微妙に異なる存在感でありながらも、“だからこそ”、「横浜流星が演じてこその魅力を持つ主人公」になっていたことに感動したからだ。その理由を解説していこう。
原作の主人公の特異性とは
迫稔雄によるコミック『嘘喰い』は2006年から2018年まで約12年に渡って連載され、シリーズ累計発行部数が880万部を超えるヒット作。ジャンルは『カイジ』や『賭ケグルイ』シリーズなどに通ずるギャンブルものだ。
その魅力は一触即発のギャンブルの緊張感、相手の嘘を見抜き智略によって打ち勝つカタルシス、ケレン味たっぷりな演出など枚挙にいとまがなく、主人公の斑目貘(まだらめばく)の特異性も重要となっている。
その人間離れした観察眼や頭脳、不敵な笑みから印象付けられる悪どさがありながら、一方で「決して悪人ではない」からこその親しみやすさもある、極めて「ダークヒーロー」的な立ち位置および魅力を持っているのだ。
マンガ的かつ人間離れしているとも言えるキャラクターを、どのように横浜流星が表現するのか? というところが本作の最大の見所であり、それは同時に『嘘喰い』の実写映画化という企画において「十分にできていなければ失敗作になる」ほどの要素だろう。
横浜流星の「ギャップ」があってこその魅力
横浜流星は、良い意味で「若々しさのあるキャラに寄せる」ことで、実写映画化史上においても最大級に難しいであろう『嘘喰い』の主人公の斑目貘を、自分らしく表現することに成功していた。それは、これまで演じてきた役でもみられた、彼の俳優としての特性を活かした結果だと思うのだ。
横浜流星は言うまでもなくとんでもない美形であり、目を細めたときの優しさを滲ませる表情も印象的だ。例えば『青の帰り道』(2018)、『きみの瞳が問いかけている 』(2020)などで不良に近い役を演じたときは、その眼差しとの「ギャップ」にやられる。
『いなくなれ、群青』(2019)やオムニバス映画『DIVOC-12』(2021)の「名もなき一篇・アンナ」のような、どちらかと言えば穏やかな役でも、その表情による「儚さ」が際立つようになっていた。
さらに、Netflixで配信中のドラマ版『新聞記者』では、横浜流星は初めは政治に無関心だった普通の大学生に扮している。だが、大きなショックを受け、複雑な感情を抑えに抑え、そして「爆発」してしまうまでの表現が素晴らしかった。普段の振る舞いとの違いを、微妙な表情の変化で伝えるという演技力の高さも思い知らされたのだ。