通訳現場でもとりわけ細心の注意を払うのが「数字」。何しろ間違えたら大問題です。たとえばmillionとbillionを勘違いしたら、商談通訳ではそれこそ訴訟モノに匹敵するでしょう。ちなみに日本ではまださほど無いようですが、イギリスでは10年以上前から通訳者向けの保険サービスがあります。訴えられた、あるいは自分が訴える、という際に使えるパッケージなのです。世知辛いなあとも思えますが、お互いの身を守るという意味では必要なのでしょうね。日本の保険会社がこうしたサービスを提供するのも時間の問題だと思います。あ、でもその前にAI通訳の完成・現役通訳者淘汰の方が先かも。

で、件の「数字」。対処方法は色々とあります。

(1)必ずメモする

とにかく誤訳があってはいけません。ならばメモあるのみ。ノートに殴り書きをしている間、たとえ自分の同時通訳に「間(ま)」が生じたとしても、数字を落とすぐらいならしっかりと書き、落ち着いて訳すべきでしょう。電子辞書、水、ノートとペンは必須。

(2)ざっくりと訳す

メモを取れればベストですが、CNNニュースのようにマシンガン的速度の同通の場合、書いている間にどんどん話が進んでしまいます。ニュースのレポートは長くても1分強。ヘッドラインなら数秒で次々と話題が移り変わります。となるとメモ取りに励み過ぎて完全に置いてきぼりになる可能性大。ですので私は「どうしても拾わなければいけない数字以外は、ざっくりと訳す」と決めています。「およそ100万ドル」「8兆円以上」という具合。

(3)最後の手段:形容詞

「5億人以下」「10万件ほど」などの数字すら拾えない場合は文脈から判断して形容詞で乗り切ります。「おびただしい数の」「大量の」「たくさんの」などなどです。内心「これって邪道だなあ」と思いはするのですが、細かい数字を拾うことに意識が行ってしまい、「木を見て森を見ず」となったら本末転倒です。

・・・とまあ、このような感じで心拍数を上げながら数字に取り組んでいるのです。