産前・産後の女性がメンタル不調になりやすいことは広く知られていますが、男性にも「父親の産後うつ」などと呼ばれる不調が存在します。
写真はイメージです(以下同じ)
国立成育医療研究センターの調査によると、父親が産後1年間に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される割合は11.0%で、母親の10.8%とほぼ同程度でした。
意外と身近な、父親の産後うつ。家庭内でこれを経験したという41歳の英子さん(仮名)は、「まだ思い出すのが辛いのですが……」と、産後まもなくの日々を振り返ります。
## 産後、夫がイライラを“撒き散らし”始めた
「30代後半で結婚した私たち。妊娠をした時は夫婦で大喜びしました。夫も赤ちゃんに会える日を本当に楽しみにしていて、赤ちゃんの様子がわかるアプリを毎日チェックしてはしゃいでいました」
やや難産でしたがなんとか無事に出産を終え、数日の入院を経てついに赤ちゃんを連れて自宅に戻った英子さん。夫婦にとって初めての子育てが始まりました。
「そこからなんです。夫がだんだんおかしくなってしまったのは」
わが子の誕生を喜び、可愛がってはいたものの、赤ちゃんの「お世話」をしようとするとおかしな発言が飛び出すようになったといいます。
「夫はもともと几帳面というか、悪く言えばちょっと神経質なタイプ。手帳の文字なんて、タイピングしたみたいにぴっちり整ってるんです。ただ、その性格で嫌な思いをしたことは全然なくて、ズボラな私はむしろ助けられていました。
だけど子育てでは……夫は子どもの抱っこの仕方から、お風呂の入れ方、ベビーカーの扱い方などまで、『本当にこれでいいのかな?』とその度にスマホや育児書で確認。それだけなら熱心でいいと思ったんですが、うまくいかなかったり、わからないことがあったりすると、『そんなのわかるかよ!』と独り言でイライラを爆発させてしまうんです。
そのたびに、夫をなだめたり交代しようとしたりするのですが、『俺は一人っ子だから姪っ子も甥っ子もいないし、赤ちゃんなんて見たこともないから、できるわけない!』と、なぜか家族構成のことまで持ち出して不機嫌を撒き散らしていました」
英子さんは「ストレスがたまっているんだろうな。もっとざっくりやればいいのに」と夫のことを心配しつつも、自身も初めての育児と家事の並行で手一杯。夫の不機嫌について、じっくりケアする余裕まではとても持てなかったと言います。
「おっぱいがある人はラクでいいよな!」
「驚いたのは、ある日夫が初めてミルクを作ろうとした時のことです。うちは母乳とミルクの混合で育てていて、夫もミルクの作り方は予習済。『英子に聞いたときのメモ見ながらやるね!』と本人も張り切っていました」
赤ちゃんのミルク作りって、工程がちょっと多いんですよね。器具一式を消毒して、沸騰させてから70℃くらいに冷ましたお湯で粉ミルクを溶かす。それを人肌程度・40℃ぐらいの温度まで冷ましたら、やっと飲ませられます。
「ミルクを作りながら『ああ! 煮沸消毒した哺乳瓶、手で触ったら意味ないじゃん!』に始まって、『70℃って書いてるのに温度計もないってどういうこと!?』『人肌程度ってなんだよ!』という具合いで、どんどんイライラし始めてしまったんです。
どんどん声が大きくなってきたので、やんわり『温度はアバウトでいいんだよ。粉ミルクがちゃんと溶けて、子どもが飲むときに熱くも冷たくもなければ。でも気にしてくれるのは嬉しいよ。温度計、今度買っておくね』となだめようとしたのですが……夫が爆発しました。
『おっぱいがついてる人はラクでいいよな! 勝手に飲んでもらえるんだから! 俺にはおっぱいがついてないから、ミルクをあげるだけでこんなに苦労するんだ! 俺は、寝かしつけもできないんだよ! おっぱいがないから! 俺に子育てなんか無理!!』」
多くの新生児の親御さんと同じく、その頃の英子さんは24時間体制で1~2時間おきの授乳をして常に寝不足。夫の言う「ラク」とはほど遠い状態だったそうですが、夫さんはその大変さを想像できなかったのでしょうか……。