大人が学んでいない性教育の課題
「性教育は教えるのが難しいという課題がある」と語るのは、2000回以上の授業や講演実績がある保健師の渡會睦子氏だ。
学校で「恋愛、SEX、ボディイメージ」というタイトルで性教育の模擬授業を行った女子高生のマイさん
「家庭環境や人間関係などに悩んでいたときに、居場所を求めてSNSで出会った男性と無防備な性行為をしてしまいました。知識がなかったから断れず、時には脅され、自傷行為をするように。学校の性教育は性行為はしないことが大前提で、付き合ってすぐ体の関係になってはダメという妊娠や中絶などのリスクばかりを教わって、セックスはいけないものだと感じました。でも、いざそうなったらどうしたらいいかわからない。もっと実用的なことを教えてほしかったです」
民間の取り組みが教育現場まで実を結んだ例も
対照的に民間の性教育の現場では新しい試みも行われている。一般社団法人ソウレッジでは、’19年に「受精って?」「体のだいじなところ」などが描かれた性教育トイレットペーパーを開発し、日常生活で性について考えるきっかけをつくった。
’21年末には、兵庫県尼崎市の立水堂小学校が採用、小学校で校内すべてのトイレに設置されたのは、全国で初めてだったという。民間の取り組みが教育現場まで実を結んだ例だ。
兵庫県の立水堂小学校で導入された「性教育トイレットペーパー」
日本の性教育の課題はまだまだ山積みではあるが、進歩も見られている。
東京都教育委員会は’19年、教員用の『性教育の手引』を改訂し、保護者の了解を得られれば、学習指導要領の範囲を超える授業を容認する姿勢を示した。「他県も東京に倣う傾向があるので、少しずつ広がっていくと期待しています」と櫻井氏は語る。
’21年からは、文部科学省によって性犯罪・性暴力の加害者・被害者にならないための授業「命の安全教育」が導入された。ただ、中学生までは性行為を教えられないのに性暴力の問題は教えるという矛盾も指摘されている。