勉強を続けていると、自分の翻訳がどれだけ進歩したのか、わからなくなることがありますよね。勉強を始めた頃に比べればずっと上達しているはずだけど、TOEICのように点数で測れるわけでもないし、どうすれば今の自分の実力を客観的に把握できるのか……。
翻訳学校に通っていれば先生からのフィードバックを得られるでしょうが、すべてに目を通してもらえるわけでもないでしょう。ひとりで勉強を続けていればなおさら、拠りどころがないように感じてしまうかもしれません。
そんなときに試してみていただきたいのが、「人に読んでもらう」という方法です。「第124回 出版翻訳家インタビュー~牧野洋さん 前編」にお話があったように、牧野洋さんも、ご夫人に読んでもらって、読みやすい日本語になっているかを確認しておられます。
“妻には原文を読まずに翻訳を見てもらうんです。そうすることで、翻訳調ではなく、読みやすい日本語になっているかを確認してもらっています。事前に原文を読むと内容が頭に入ってしまい、翻訳調の文章でも自然に読めてしまう可能性があるので、見せないようにして渡しています。”
英語ができる方に読んでもらう場合、訳文が不自然でも、原文を見れば「ああ、きっとこういうことが言いたいんだな」と想像できてしまいます。それでは訳文の完成度を正しく判断することができませんので、訳文だけを読んでもらうようにしましょう。
また、できればそのジャンルに詳しい方に読んでもらうのがおすすめです。ミステリならミステリ愛読者に、ビジネス書なら普段から熱心に読み漁っているビジネスパーソンに、専門書なら研究者や現場の実践者に読んでもらうのです。そうすると、そのジャンルの雰囲気を把握しているので、「なんだかそぐわないな」「この箇所がちょっと浮いてるな」と気づいてくれるからです。
気づいても、訳文の欠点は指摘しづらいものです。「悪くないと思うよ」「なかなか読みやすかったよ」などと当たり障りのないフィードバックになりがちですので、きびしく指摘してほしい旨をあらかじめ伝えておきましょう。優しい方だと遠慮があるでしょうから、「はっきり指摘してくれたほうが私のためになるので、ありがたいです」と伝えてみるといいかもしれません。相手のためになることが明白なら、きびしいことも言いやすくなるからです。それでも出てこないときは、「あえて挙げるなら、どこが引っかかる?」「どこか1箇所だけ変えるとしたら?」と食い下がってみてくださいね。
絵本の場合は、ぜひ音読してみてもらってください。読み聞かせの活動をしている方に訳文を使ってもらうのです。文字を見ているだけだと気づかなくても、音読してみると、読みづらい箇所や、音声では意味がつかみづらい箇所がわかるので、訳文に反映できるでしょう。また、実際に対象読者を相手に読み聞かせをしてもらい、その反応を受けて言葉を選んでいくこともできるでしょう。
「人に読んでもらう」以外におすすめの方法は、「時間を空けてから読む」というものです。「夜に書いた手紙はそのまま出してはダメです。必ず翌朝読み返しなさい」と昔から言われてきたのにも通じるかと思いますが、内容と心理的な距離が近すぎると、客観的に読むのは難しいですよね。だから、時間を空けるのです。数日空けて読むのもいいのですが、できればもっと長めに空けてみてください。原文もすっかり忘れて、翻訳をしたことすら忘れかけた頃に読んでみるのです。すると他人が読むのに近い感覚で読むことができるので、自分の実力も把握しやすいでしょう。
こうやって読む練習をしていくと、自分の中に客観的な自分を養うことができます。そうなれば、時間を空けて読まなくても、読者目線で自分の訳文を修正していけるようになるでしょう。ぜひ試してみてくださいね。
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